てっぺい

正体のてっぺいのレビュー・感想・評価

正体(2024年製作の映画)
4.0
【正と体の映画】
死刑囚の正の行いに、周囲の人物たちの心がほだされる人間ドラマ。横浜流星の体を張った演技に息を呑む。横浜と監督が目指した“究極のエンタメ”の正体は、まさに一瞬も目を離せない極上のサスペンス。

◆トリビア
○鏑木がマンションの3階から飛び降りるシーンは、スタント無しで横浜流星自ら実演。「逃亡シーンは一連で撮っていて、臨場感あふれるので見どころの一つです」と自信を見せる。(https://movies.shochiku.co.jp/shotai-movie/news/20241118event/)
○本作は、横浜流星にとって、クランクインから遡ること約3年もの間、藤井監督と脚本やセリフなどのやりとりをし準備を進めてきた作品であり、「非常に思い入れのある作品」と語る。(https://movies.shochiku.co.jp/shotai-movie/)
○横浜は鏑木の5つの顔について、「別人格ではないので彼の心の部分や鏑木としていることを意識していました」とし、「やりすぎるとコスプレになるし、街の中にいても紛れ込めるように意識しました」と役作りを語る。(https://movies.shochiku.co.jp/shotai-movie/news/1105event/)
○横浜は、5つの顔で“ベンゾー”が一番落ち着くという。「普段は自分もヒゲがボーボーなんで。あれが一番自分に近いのかもしれないですね。そんなにギャップはなかったです」と笑ってみせる。(https://www.cinematoday.jp/news/N0146168)
○思い出の共演シーンを聞かれた吉岡里帆は「横浜さんの餃子づくりが意外にも上手じゃなかったことです(笑)。横浜さん、何でもできるのでギャップというか、なんだか人間味を感じました。」
横浜「本当は料理得意な設定なんですけどね(笑)。」(https://www.fashion-press.net/news/124041)
〇吉岡は、横浜演じる鏑木からピュアな誠実さと、痛みを背負っている影を感じて、「自分が強くならなければ」と自然と思ったという。「流星くんの体現した真っ直ぐな目を見ながら、私は「この人に幸せであってほしい」と思いながら撮影をしていました。」(https://www.crank-in.net/interview/156672/1)
〇拘置所の面会室で鏑木が和也、又貫と対面を果たすシーンは、当初は脚本になかったが、大阪の工事現場シーンでの森本の演技に手ごたえを得た監督が、急きょ書き加えたこだわりのカット。監督は「スタッフの中には“和也”推しがいるくらい、人間味あふれる良い芝居をしてくれています」と森本を称賛する。(https://eiga.com/news/20240826/1/)
○ 夏編と冬編はそれぞれの季節に撮影された。夏の建設現場で汗だくになっているシーンについて、横浜と森本慎太郎は「全部”自前の汗”です」と明かす。(https://movies.shochiku.co.jp/shotai-movie/news/20241118event/)
〇横浜は20代の頃に憧れの役者を聞かれ、山田孝之の名前を挙げていたという。「最初に対峙した時に武者震いしました。学びも多かったですし、幸せな時間でした」と念願の山田との共演を振り返っている。(https://moviewalker.jp/news/article/1208971/)
〇山田孝之は演じた又貫について「きつかったですね、かなりきつかった。ずっと追い込まれている状態で、葛藤がある役なので」と、その役どころの精神的な負担について明かした。(https://www.cinematoday.jp/news/N0143980)
〇横浜と山田の取っ組み合いのアクションシーンは、何度もテイクを重ねたという。山田「初日だったので緊張していて、かなり本気でいってしまいました。」横浜「又貫が本気で来てくれたので、こちらも思い切り、本当に泥臭く向き合えました。」(https://nordot.app/1234679236535894605?c=768367547562557440)
〇山田は接見室のセットに入る際、映らない場面でもドアを開けてから席につくと監督は明かす。「山田さんは絶対そうしますね。何回も何回も繰り返して、自分が気持ち悪くない体制や、テンションだったりを作っています。」(https://thetv.jp/news/detail/1226810/)
〇夏編の撮影最終日に、山田孝之が又貫ではなくエキストラとしてサプライズ出演。吉岡里帆は「本当に気付かないくらい変装して来てくださっていて、みんなも出ているシーンだったんですけどビックリしましたよね」と振り返る。(https://thetv.jp/news/detail/1226030/)
○山田杏奈は演じた舞について、楽な道を選択していたが、逃げずに向き合う変化があると話す。「舞は舞なりに『彼に恥じないように生きるにはどうすればいいのか』をすごく考えたと思うんです。(鏑木と出会った事で)1人の人間として大きく成長したのかなと思いますね。」(https://hominis.media/category/actor/post13404/)
○横浜と藤井道人監督のタッグは、『青の帰り道』('18)、『ヴィレッジ』('23)に続き、長編では今回で3回目。横浜は、5パターンの演じ分けが必要となる困難な役について、俳優として経験を積んだ今だからこそ演じられたと話す。「藤井イズムのようなものを残しながら「極上のエンタメを作っていこう」という共通認識を持って臨んでいました。」(https://www.crank-in.net/interview/156672/2)
○原作者は、本作が原作で描かれなかった部分を主軸に描かれているとし、「映画『正体』は小説『正体』のアンサー作品だと思います。」と語る。(https://movies.shochiku.co.jp/shotai-movie/)
〇本作の本編映像をふんだんに使用した、ヨルシカによる主題歌「太陽」のスペシャル・ミュージックビデオが公開中。(https://www.youtube.com/watch?v=enVYS2ZToTU)
〇横浜流星とTHE RAMPAGEの岩谷翔吾は高校の同級生。岩谷が作家デビューした小説「選択」は横浜が原案だという。(https://tver.jp/episodes/epvqf4i5ml)

◆概要
【原作】
染井為人「正体」
【監督】
「余命10年」藤井道人
【出演】
横浜流星、吉岡里帆、森本慎太郎、山田杏奈、前田公輝、田島亮、遠藤雄弥、宮﨑優、森田甘路、西田尚美、山中崇、宇野祥平、駿河太郎、木野花、田中哲司、原日出子、松重豊、山田孝之
【主題歌】ヨルシカ「太陽」
【公開】2024年11月29日
【上映時間】120分

◆ストーリー
日本中を震撼させた凶悪な殺人事件を起こして逮捕され、死刑判決を受けた鏑木慶一が脱走した。鏑木を追う刑事の又貫征吾は、逃走を続ける鏑木が潜伏先で出会った人々を取り調べる。しかし彼らが語る鏑木は、それぞれがまったく別人のような人物像だった。さまざまな場所で潜伏生活を送り、姿や顔を変えながら、間一髪の逃走を繰り返す鏑木。やがて彼が必死に逃亡を続ける真の目的が明らかになり……。


◆以下ネタバレ


◆エンタメ
鏑木が監獄で口を切る場面から始まる冒頭。その後、現在である取調室のシーンから、過去である殺害現場での鏑木の画を経てタイトルへ。思い返せば、現在と過去のシーンを行き来し進むこの物語が冒頭で凝縮されて明示されており、かつとてつもないインパクト。ラストでは脱獄の理由が鏑木の口から明かされる事で、この一連の逃亡劇の始まりと終わりがが頭とラストで美しくまとめられている見事な脚本。全体的に、次から次へと場面が変わり、後述のアクションもあれば、横浜の七変化あり、終わってみればこれは鏑木とそれを囲む人々の人間ドラマ。終始惹きつけられるその疾走感は、横浜と監督がもった共通認識だという“究極のエンタメを作る”、まさにその言葉の通りだと思った。

◆横浜流星
なんと言っても5パターンの演じ分けが素晴らしい。ベンゾー(横浜はベンゾーの姿が普段の自分に一番近いという笑)の、あの背中を丸めてボソボソ喋る様から、都会に溶け込むライター姿しかり、人相が全く変わるメイク術も素晴らしい(初のお酒に乾杯を忘れるベンゾーのくだりも○笑)。お互い無名の頃からの知り合いだという藤井監督と何度ものタッグを経て、ある意味その集大成だという本作。俳優経験を積んだからこそできたという5役の演じ分けが堪能できたし、本作においてはアクションも。又貫との取っ組み合い(山田が撮影初日で本気を出しすぎたという)は、家具が崩れかなりの緊迫感だったし、本人がスタントなしで3階からジャンプ(しかも車の上に!)でさらに川にも飛び込むあの一連のシーンの息を呑む事。最近ではプロのボクシングライセンスを取ってしまう、横浜流星の俳優としての可能性が本作でもこれでもかと堪能できた。

◆正体
署名活動の初顔合わせで、安藤が“どの鏑木くんも、それぞれが本当の正体”と語る場面が。各地で変装した鏑木は、正体を明かさずともその“真の行い”において安藤、和也、舞の心をほだした。正体を明かした鏑木と三人が接見していくラストは、その正体がなんであれ、鏑木の真の行動に各々が呼応し、鏑木を包み返していくような描写(ちなみにあの面会室のシーンは急遽監督が脚本に足したこだわりのシーンだという)。その意味では又貫も、“社会を信じてみたかった”という鏑木が逃亡した理由を聞いて、ついに誤認の可能性を決意したわけで、これもやはり鏑木に又貫が呼応し、鏑木を助けると決めた重要なシーン。最後の判決を聞いて笑顔をこぼした鏑木はそれこそ、信じようとした社会、その社会から信じ返してもらえた、最高のラスト。1人の男の正体が、周囲の人々の正体を導き出す、社会の正体はこうあるべきだ。

◆関連作品
○「ヴィレッジ」('23)
横浜流星と藤井監督のタッグ作品。とある村で起こる日本の縮図。Netflix配信中。
○「青の帰り道」('18)
横浜流星と藤井監督の初タッグ作品。青春群像劇。横浜が少し初々しい。RAKUTEN TVレンタル可。

◆評価(2024年11月29日現在)
Filmarks:★×4.1
Yahoo!検索:★×4.1
映画.com:★×4.3

引用元
https://eiga.com/movie/101366/
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/正体_(染井為人)
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