感動した。ストレートに感動した。今年の邦画トップを競う傑作である。
冤罪で殺人犯にされることなどあってはならないが、痴漢犯にさせられた沙耶香の父親が取り調べで責められ世間からも責められ続けるとやってもいない罪を認めてしまいそうになると吐露してるように、真実は世間の空気に掻き消されてしまうこともある。そして冤罪は検察や警察のご都合主義(少年法改正で18歳でも重罪にできるという前例を作る)に巻き込まれてしまうとどうにもならない。鏑木のように被害者家族の目撃証言(その証言が間違いや嘘でも)があれば、権力の側はそれを決め手に犯人を特定し事件を収めようとする。
しかし鏑木は死刑が決まっても諦めず脱走し「真実を証明」する為に行動する。
とてつもない精神力と緻密な計画性(正体を隠し働くそれぞれの場所に意味がある)で遂に目撃証言を覆す一歩手前まで辿り着く、。
ベンゾーに扮し劣悪な環境で建設現場にいる時は怪我をした仲間の為に労災申請を現場監督にかけあい正義を貫き、那須になった時は文才溢れるライターとして信頼を得て、桜井として介護施設では患者に寄り添う介護士となる。そこで親交をあたためた野々村和也(缶ビールで2人で乾杯するシーンが素朴に良い)、安藤沙耶香(居酒屋で初めて焼き鳥を食べ感激するシーン、刑事が踏み込み鏑木を逃すシーンが印象的)、酒井舞(氷上のデートシーンと屋上のクライマックスシーンのギャップ)らが支援者となり冤罪を晴らす手助けをしてくれた。
再審の判決の際映画はサイレントとなる。拍手をする皆と鏑木慶一の顔が大写しになり、ラストとなる。観客が胸を撫で下ろし涙する場面である。
横浜流星は主演作として最高の演技を披露した。吉岡里帆の目で訴える表情がとても良い。そして山田孝之の重厚な演技は映画全体を締まったものにした。
原作では結末は違っていたとのことだが、原作者も感謝するほど映画として見事なまとめ方だったと思います。
この世界は理不尽なことで溢れているが、信じてもいい世界も沢山あるのです。