アルモドバルらしい、アーティスティックで情報量に溢れた画面から伝わってくる心の機微。それは相変わらずなんだけど、今回はティルダ・スウィントンとジュリアン・ムーアという、2人の名優に寄せる全幅の信頼が感じられた。
純粋な個人のドラマだけでなく、誰もが歴史の重みや社会の影響を受けながら生きているというエッセンスにより、それらがより濃厚に打ち出された『パラレル・マザーズ』との接点も感じる。
死に近づく(歳を重ねる)につれて、楽しみや喜びを得るものが減っていくという描写に、胸が締め付けられる。だからこそ劇中のマーサのように、ささやかながらも心に触れるものや,心地よくしてくれるものを大切にしたい。
ドラマとして予想以上に洗練されていて、よくある感動作といった類のものから抜きん出た作品。正直、鑑賞中には受け止めきれず、観た後の余韻の中で本作のことがどんどん好きになっている。