今作は何やら衝撃的な事件を以て始まる。1983年、ブルース・ピアース(セバスチャン・ピゴット)とゲイリー・ヤーブロー(ジョージ・チョルトフ)は狩猟旅行を装ってウォルター・ウェスト(ダニエル・ドヘニー)を夜の森に誘い出し、殺害した。ベテランFBI捜査官テリー・ハスク(ジュード・ロウ)は、70年代にニューヨーク州でクー・クラックス・クラン(KKK)やラ・コーザ・ノストラの捜査に携わった後、より容易な案件を探し、疎遠になっていた妻と娘ともう一度ヨリを戻そうと、アイダホ州コー・ダレーンの現地事務所を再開する。今作は80年代の驚くべき実話のルポルタージュである。ワシントン州スポケーンでは、ボブ・マシューズ(ニコラス・ホルト)の率いる集団が、ワシントン銀行ミューチュアル支店を強盗する。その後、マシューズは妊娠中の愛人と妻をそれぞれ訪ね、強盗で得た現金の袋を渡すのだ。いつもの定型に寄るジャンル映画ならば、組織だって銀行強盗する輩は犯罪者としか思われない。例え国家転覆を図るような秘密結社だとしても、その理想は末端にまではなかなか行き渡らない。大抵つるし上げられるのは思想ではなく、目の前の金目当てに引っ張られた連中ばかりで、なかなか真犯人が浮かび上がらない現状に地元警察は苛立つ。
然しながら彼らは単なる犯罪組織ではない。捻じれた思想を持ちながらも、その思想を一つの理想として祭り上げ、狂信的な行動へと走って行く。いわば現代で言うところの「カルト」の走りである。アーリアン・ネーションズとその創設者であり、牧師のリチャード・バトラー(ヴィクター・スレザック)への凶行の後、ハスクは地元の保安官事務所に自己紹介し、ジェイミー・ボーエン副保安官(タイ・シェリダン)と運命的な出会いを果たすのだ。『ターナーの日記』はデヴィッド・フィンチャーの『セブン』における7つの大罪のようであり、この恐るべき革命指南書は自動発火装置の様に彼らの心に火をつけ、いざ実行のタイミングへと着々と移行するのだ。刷り込まれた思想が排他に繋がる恐怖の連鎖。新米警官であるボーエンは実はテリーよりも早く、同グループが最近のシナゴーグ爆破事件や、スポケーンを含む一連の強盗事件にも関与していると疑っていた。ハスクは同僚のFBI捜査官ジョアン・カーニー(ジャーニー・スモレット)と合流し、真犯人に関する徹底的な情報を掴むがのちに奈落の底へと突き落とされる。『マクベス』や『アサシン クリード』で一躍時代の寵児へと躍り出たオーストラリア出身の鬼才ジャスティン・カーゼルの物語は、前作『ニトラム/NITRAM』並みに片田舎で起きた陰惨な事件に力強い筆致で歩み寄る。正しさとは何かを多くの白人たちが理解しない皮肉。振りかざした正義が狂気に変わる瞬間。アマプラ配信映画として久方ぶりに申し分ない名作である。