m

レベル・リッジのmのレビュー・感想・評価

レベル・リッジ(2024年製作の映画)
4.9
大傑作。「ブルー・リベンジ」「グリーンルーム」「ホールド・ザ・ダーク」とずっと強烈な暴力を冷徹に描いてきたジェレミー・ソルニエ監督が今回描くのは、なるべく暴力を用いず(使っても柔術)人を絶対に殺さない主人公が冷徹な社会の腐敗に立ち向かう知的な闘い。死人は最小で暴力もほぼ無い新境地、それでも映画全体に常に緊張感と映画的興奮が静かに漲る!
「ロッキー」的幕開けにスカッとするアクションを期待した方には肩透かしだろうけど、静かに忍耐強くタフに突き進んでいくこの映画は、渋い映画が好きな方にはたまらないと思う。

実は「ロッキー」よりもドラマ版「ジャック・リーチャー」シーズン1に近い作品だと思う。田舎町にやってきた男が地元の女性と協力しながら街に巣食う悪を暴いていく流れ。しかし今作の街の悪はもっと地に足ついてリアルで(監督はリサーチを重ねてギリ法に触れないような悪役のやり口を探ったそうだ)、そして彼らがそうする理由も街の財政の困窮という極めてリアルなものだ。
そういう点でハリウッド的な絵空事とはかけ離れた感覚があり、その悪に立ち向かう主人公もまたアクション映画によくある『実は凄い人』なのだけど彼が従軍者ではなく○○の○○であり、礼儀正しく暴力とは違う解決策を探ろうとする人である事もまたこの映画に他の映画には無い感覚を付与している。

地方の街の困窮という悪役側のバックボーンに加えて、物語の発端である黒人の主人公に白人男性警官達が暴力的に難癖を付ける場面は実際に起きた警官による黒人殺害事件を想起させるし、黒人の主人公と唯一連帯するのが訳ありの女性だったり、ある種の社会派映画でありマイノリティを描く映画でもあるのがまた良い。

なるべく暴力を避けるとはいえアクションの見せ場はやってくる。死人は出さないのにスリリングで、これがまた渋い面白さ!主人公の身元が分かる場面は『舐めてた相手が実はやばいやつだった』モノの楽しさがきちんとある。


映画開始30秒後からすぐに事件が起きて、その後は地に足ついたクールなトーンながら最後までノンストップで事態が進み続ける構成も素晴らしい。それを踏まえたラストカットも見事だった。


主演のアーロン・ピエールも完璧。初めて観た俳優さんなのだけどこの人は確実にスターになるだろうと思わせる素晴らしいカリスマ性の持ち主だった。元々はジョン・ボイエガが主演する予定だったそうだけど、これはアーロンさんで正解だと思う。ちなみにアーロンさんの次回作は「ライオンキング:ムファサ」の主演です。

またしても嫌な白人役のドン・ジョンソン、他の方もTwitterに書いていたけどかなり意識的に作品や役を選んでいて良いキャリア形成だと思う。今作の演技は素晴らしかった、特に最後の表情!
アナソフィア・ロブの熱演も印象深い。
汚職警官達の中で最も嫌な奴の坊主デブ役の人が、実は「ブルックリン」の主人公の相手役のイケメンだった事を後で知って驚愕。役者魂だね

ジェレミー監督にはこれくらいの規模で自分の映画を作り続けてほしい。
m

m