風に吹かれて時代は変る、転がる石のように
1960年代前半のボブディランの記録とアメリカの歩みを描く音楽伝記映画。ウディ・ガスリーとピート・シーガーに見出された新人フォークシンガーのディランはアコギ一本とブルースハープでフォーク音楽界とアメリカの不均衡の代弁者となる。
ティモシー・シャラメによるボブ・ディランのパフォーマンスはかなりクオリティが高く、特徴的なギターのテクニックや癖のある歌声だけでなく仕草や姿勢までディランに寄せているのは執念のようなものを感じた。他にもボイド・ホルブルックのジョニー・キャッシュも声がそっくりで驚いた。
脚本に関しては音楽伝記映画特有の問題としてある「エピソードの羅列」が今作でも見られてしまったのが残念。ディランをめぐる諸々のエピソードは興味深いものばかりではあるが、フォークシンガーのレッテルを貼られてそれを全うしなければならない彼の終盤の苦悩は急に出てきたように見えてしまった。またシルヴィアやピートの妻・トシの視点も興味深かったものの薄口になっていた。
画面から醸される重厚感や光沢感はジェームズ・マンゴールド印で大いに楽しめ、ライブシーン、特に「時代は変る」とラストのエレキセットのシークエンスは泣けるほど良かったので、ストーリーテリングだけが悔やまれる、かなり惜しい作品だった。
『ボブ・マーリー:ONE LOVE』や『BACK TO BLACK エイミーのすべて』が抱えていた「音楽映画」としての消化不良はなかったのでそこよりは加点。