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マルホランド・ドライブ 4Kレストア版のmidoredのネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

初の劇場デヴィッド・リンチ。不安を誘うあの独特の音を全身で浴びることができて感無量です。

本作も実は初鑑賞でした。幸運なことに!ただタイトルからは想像できない悲しいお話で、シアター出た後しばらくしんみりしてしまいました。ハリウッドの裏で動めく人間の欲望と夢破れた者の悲しみを全開のデヴィッド・リンチ節でくらって当てられたようです。一晩たってもクラブ・セレンシオの女優の歌声が耳につき刺さったまんまです。

マルホランド通りがどんな場所なのか知りませんが、その先には人気監督の邸宅があり、ロサンゼルスの街を見下ろすロケーションを考えるとハリウッドの頂点を目指す通過点の象徴ではないかと思いました。そういえば『ララランド』でもあんな感じの丘の上でパーティをしていました。

そんなキラキラした夢の丘を愛しいカミーラに手を引かれて登るダイアンは夢心地です。スターを目指す女優の卵はみなこんな気持ちなのでしょうか。それが一気に突き落とされる。彼女は愛を失い、夢にも敗れ、一方でカミーラは美貌と色仕掛けでのし上がる。怒りと嫉妬に狂ったダイアンは殺し屋を雇い、カミーラの死を悟って絶望のあまり自殺します。札束の底に隠されていたのはこの恐ろしい秘密を隠した箱の鍵だったわけです。

ここまでくると物語の大半をしめる「ベティとリタ」のエピソードは全部ダイアンが作り出した幻想だったことが分かります。ベティという名前はダイナーの店員から、リタは古いポスターから拝借した名前で、いうなればみんなダイアン自身の思い出と砕け散った夢のカケラだったと。だからこそ最後は皆ダイアンに似てくる。お揃いのブロンドヘアになった2人がクラブ・セレンシオで聴いた歌は「死んだ」ダイアンの慟哭でしょう。歌う本人はすでに死んでいて、聴こえてくるのは録音であり幻なんですね。セレンシオとは静寂、すなわち死。そしてブルーの箱の中身も死の真っ暗闇。

ハリウッドなんてのはこうしたクソの魔窟だから下手に目指すもんじゃないぞという監督の親切な警告なんでしょうか。あるいは舞台をハリウッドにしただけでいつもと同じく愛と光vs欲望と闇、その葛藤を描いているのか。

分かりやすいところで言えば、慈愛と光につつまれた金髪のベティと、恐怖と闇をまとう黒髪のリタ、この2人だけでも光と闇のセットなんですよね。愛を確かめ合ったあとの寝顔は2人で1人の顔を構成していました。彼女たちはダイアンの心の中の光と闇だったから、統合したのちに真実へと導かれたのではないかと思います。

ツインピークスでクーパー捜査官が録音しながら話しかける相手がダイアンなのもなかなか面白い。新シーズンに出演する前までのダイアンは本当に名前だけの謎の存在で、常に物語の外側にいましたから、マルホランドで2人の女を想像して姿が見えなかったダイアンと似ています。物語を想像する当人は想像の中にはいないので。

赤い部屋も炎も、光と闇の対決もまんまツインピークスですし、ウィンキーズの裏にいた煤だらけの男も新作シリーズに出てきます。全身焦げているので地獄の住人でしょう。死を匂わせる存在。だから冒頭ウィンキーズでされる不気味な会話と顛末は物語の預言になっているんですよね。この点、本作はゴシック小説の形式で描かれるホラー映画でもあります。そしてあんなに思わせぶりに出てきておいて、ダイアンの想像世界には全く関わらないのも彼らがダイアンと同じく物語の外側にいるからでしょう。いやむしろダイアンの悲劇の外側ですね。三重のマトリョーシカのように。あの青年なんかまるで冒頭に毎回不気味なポエムをうなっていた丸太おばさんの甥っ子でした。とにかく終始ツインピークスとの結びつきを感じる作品でした。

ちなみに殺し屋役はスーパーナチュラルでルシファーを演じていたマーク・ペレグリノ氏で、本作でもちょっと眠たそうな顔で怖い仕事をサクサクしておりピッタリの配役でした。
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