このレビューはネタバレを含みます
「Arcアーク」の近未来と人間性の融合が見事だった石川慶監督作品。周囲の評価がイマイチなので、どうなのだろう?と不安を覚えつつ観たが、彼の作風がよく出た切ない愛の物語だった。あらすじを読むと、要素てんこ盛り過ぎ(日本では珍しい)と思ったが、個人的にはラブストーリーの部分が強く余韻として残った。2016年の「エクス・マキナ」から、AIの人間性をさらに成長させ、より親密なものへと発展させていた。毒親育ちの人間は、誰よりも愛を求めるのに、どうしても歪な人間関係になってしまいがちで、永遠に失いたくない関係ですら壊してしまう。ナオキはとても悲しくて切ない人だと感じた。思考が短絡的過ぎるけど、愛を求める気持ちだけは誰よりも強く諦められない人だと思うから。石川作品は難しいテーマが多いので、俳優の負担が大きいが、本作では伊藤英明自身が持つ危うさが上手く作用していた。ワイルドなのに科学者で繊細で愛一択の伊藤英明、サイコじゃなかったら完璧なのに(笑)感情を持ったAIと暮らす場合、普通なら情が湧いてしまうものだが、ナオキは違う。科学者としてマユミを作り上げようとしているから完璧を追求するし、そもそもマユミ本体ですら「こんなのマユミではない」と殺してしまった男だ。社会性に乏しいというか「こうであるべき」から離れられなくて、変化に適応する力に欠けているのだろう。そんな二人に板挟みになるQの結末も切なかった。ぶっちゃけ後半、Qへの愛情がだだ上がり(笑)宇宙描写もとても美しく安っぽい感じもなく、彼らの自宅がマユミが陶芸家だからか、温故知新を感じさせるお洒落なインテリアで素敵だった。撮影監督を「Arc」で組んだポーランド人の監督に任せているし、AmazonGMG配給ということはアメリカ配給になるの?だろうし、それぞれの持ち味が融合した美しいスペースコロニーだった(製作費も多く貰えそうだし(笑))。歪な人間が作り出すものは、「完璧」なんてあと何百年経っても出来得ないのかも知れない。だって人間自身がその歪さを愛おしいと感じているから。作品でナオキを救えなかったことが悲しい。どうか彼の魂が安らかに休めますように、次は幸せな関係性を築けますようにと願わずにはいられなかった。普段のAmazonオリジナル映画が秀作揃いだからか、辛口レビューが多いけれど、本作も二転三転して、よく出来た作品ですよ。