ハルフォンの「ポーランドのボクサー」の映画化でもなく、
「アウシュビッツのチャンピオン」のリメイクでもなかった。
とはいえ、
本作は旧共産圏の文化の蓄積が生み出したリアリズムの秀作の一つと言えるだろう。
本作は、単なるボクシング映画にとどまらず、
ポーランドという国の歴史、社会、
そして人々の心の奥底をも掘り下げている。
強調したいのは、旧共産圏の作品が持つリアリズムの深さだ。
それは、単に生活の描写を写実的に描くだけでなく、
その社会が抱える矛盾や、人々の心の闇を、
セリフでもあるように、
まるでひとつひとつレンガを積み上げるように丹念に描き出している。
リング上での激しい打撃の応酬は、
肉体的痛みを伴うだけでなく、
登場人物たちの心の傷をえぐり出す。
その描写は生々しく、観る者の心を揺さぶる。
しかし、本作は、
リングの外でも色々と仕掛けてくる。
家族の愛情、葛藤、そして別れ、
これらの感情は、普遍的なものでもありながら、
同時にポーランドというロシアとドイツに挟まれた、
特定の社会の中で育まれた複雑な感情でもある。
エンドロールで流れる亡命したスターたち、
流れる音楽はスコーピオンズ、
マイケル・シェンカーが脱退後のヒット曲は、
時代の変化と、それに伴う人々の心の変化を象徴しているかのようだ。