ドント

ミッシング・チャイルド・ビデオテープのドントのレビュー・感想・評価

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 2025年。いやぁこれはね、なかなかね。子供の頃、山にある廃墟で弟を見失ったことへの罪悪感から山岳での人助けを続ける敬太の元にある日、疎遠になっている母親からビデオテープが送られてくる。ビデオには、幼い敬太が当時撮影していた弟を見失うまでの一連の映像が収められていた。霊感のある同居人・司は「すぐに捨てた方がいい」と言うのだったか……
 第2回日本ホラー映画大賞受賞作である同題の短編をベースにした長編ホラー。受賞作の主な要素は残して他の部分を付け足し、肉付けし、膨らませたような作品である。加えられたのはたとえば「隠れ里的な廃墟」「よくない山」「怪奇因習」「新聞記者」などなど。
 受賞作の短編は大変によくできていて、これ短いゆえに最低限の背景を設置し2ネタくらいをバチンとぶつけて見事な化学反応を起こしてるんですね。長編化した本作も元の短編の旨い部分を残してあるし、加えられたのも王道というか手堅いホラー要素で、つまり揃った材料そのものはよい。
 しかしこれを長編にするとなると、人物の背景が要る。葛藤や苦悩が要る。何より物語が必要となる。本作には「弟を探す青年」「霊感のある青年」「青年らに興味を持つ新聞記者」の3人=3本の軸があり、これらを上手いこと絡めたり交差させたりすれ違わせたりしながらこう、いい具合に進行させにゃならんわけである。
 そんなの当たり前やん、と言われるかもしれないが、困ったことにその当たり前が上手くいっていないのでウ、ウ~ン……と参ってしまった。話運び・展開に違和感しか生じない。最近流行りの「考察の余地」とかではなく、単に上手くいっていないのである。
 軸となる物語がそうなので、そこに付随する怖い要素もことごとく浮いて上滑りして見えてしまう。いちばん怖いのが旅館の兄ちゃんが語る怖い話で、確かにこれは絶品なのであるが、これは話(と、無骨な語り口)が怖いのであって、一本の「映画」の中に綺麗に織り込まれてあるかと言われるとウゥンと唸るしかない。
 ホラーの歴史、Jホラー史を充分に参照しているのではあるが、それらが有機的に映画に奉仕していないのだ。具材ひとつひとつはよいはずなのに、響き合っていない。材料がごろんと切られた生煮えの料理のようになってしまっている。
 これは監督にのみ責が帰されるものではなく、脚本のまとまりのなさが主な原因であろうと思われる(長編化に際してプロの脚本家が呼ばれている)。キャストの面々もこう、実に味のある顔つきもイイ感じだった。スーパーのエプロン姿の敬太役の人など完璧すぎて、近所のスーパーで何度も見たことがある気がするレベルの馴染みっぷりだった。あと一歩ごとにヤツれていくように見える司役の人もよかった。いやはや、つくづく惜しい代物だと呻吟するばかりである。愛と野望は感じるので、次はバッチリ作られたクッソ怖い作品、待ってます。
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