本作は、
【ミュージックビデオとして観るか、映画として観るか】
をどう捉えるかで評価が大きく分かれる作品だ。
【MVとして】
ロビーという成功したロックスターの内面的葛藤を軸に据え、
その感情の起伏を音楽的なリズムとビジュアルで表現する手法は見事だ。
映像と音が一体となり、
多種多様の動きの激しい人物を捉えるカメラも的確だ。
特にラストまで観客の共感を維持する力は、
大胆にも「主人公は猿」という奇襲的なアイデアが効いている。
人間を超えた存在としてのロビーは、
寓意的な深みを加え、
視覚的インパクトとともに感情の抽象性の強調は、
劣等感や疎外感をも包み込む事まで奏功している。
131分のMVと割り切れば、その実験的アプローチは成功しており、
音楽と映像の融合として十分に楽しめる佳作だ。
一方、
【映画として】
映画としての観点に移ると、評価は少し複雑になる。
端的に言うなら〈人間でやるべき緻密なシナリオ〉
ロビーの家族、おばあちゃん、
父親、母親、だけでなく、
ネイトのような幼馴染みの周辺人物、
スイカのエピソードまで丁寧に描写している点は、
物語の厚みを出す意図を感じさせる。
ここで問題が浮上する。
ロビーを「猿」として描くことで生まれる非現実性が、
映画としての人間ドラマを求める観客の期待とズレを生んでしまう。
具体的に言うと、
ロビーの〈心〉が伝わる演出、
ロビーの〈心遣い〉が見える芝居、
が、
しっかりできているので、
人間の顔だったら、
もっと伝わる・・はず。
もし家族や友人との関係性を掘り下げ、
彼らの視点からロビーの葛藤を映し出す人間らしい物語を目指すなら、
あるいは、
客席から見つめる自分自身等、
ロビーは猿ではなく人間であれば感動は倍増していたような気もする。
キャラクターたちの描写は細やかだが、
感情の接地が不十分に感じられる瞬間がもったいない、
この選択はむしろ足枷となり、
観客に「何か物足りない」という印象を残してしまってないだろうか。
そんな所が、
観る側の視点次第で、
傑作にも凡作にもなり得る稀有な一本、
と言わざるを得ない理由だ。
ちなみに、
近くの座席の、
インバウンドの観光客っぽい外国の方、
嗚咽してた。
唄いたかったんだろう、大声で、
I did it m~~y wa~y