たかぽん

ファーゴのたかぽんのネタバレレビュー・内容・結末

ファーゴ(1996年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

コーエン兄弟制作のサスペンス映画。
金のやりくりに困った自動車セールスマンが妻を狂言誘拐させる話。
話自体はサスペンスなのですが人間の間抜けさをブラックユーモアで表現しています。
ちなみにBBCドラマの『ハッピー・バレー』はこの作品のプロットを借用しているのではないかと思います。

この映画を見ててまず印象的なのはこの舞台のミネソタ方言。
「yeah(ヤー)」というやたらのんびりとした喋り方です。
かなり陰惨な事件が起きるのにこの喋り方でやたらと間が伸びます(笑)。
実行犯の2人(演スティーブ・ブシェミ、ピーター・ストーメア)は余所者という設定です。
周りの人間がやたらと愛想がよくゆったりと喋るのでこの2人が余所者だということがハッキリ分かります。

ポール・バニヤン

この作品で何度も映し出される巨人の像があります。
ポール・バニヤンと呼ばれる民間伝承の空想の人物です。
開拓民が生活の苦しさを紛らわせるためのジョークが生み出した人物だと言われています。
つまりホラ話というのがこの映画のベースになるテーマなのでしょう。
最初に映し出される"This is a true story.(これは実話である)"ということ自体もホラ話なのです。
そのポール・バニヤンですがやたらと不気味に映ります。
斧を持った伝説の木こりのポール・バニヤンですが何か殺人犯のように見えてしまうような不気味さがあります。
途中でマイク・ヤナギタという日系男性が出てきます。マージの同級生なのですが久々に再開して彼の妻が亡くなったという話を聞かされます。という話もホラ話だったということを彼を知る友人から聞かされます。ホラ話をする人間の心理の癖みたいなものを彼の様子から閃いたのでしょうか、マージはジェニーの聴取を改めてすることになるのです。


田舎という素材を上手く使い切った演出

コーエン兄弟の作品は郊外や田舎を舞台にした作品が多くあります。
この作品もミネソタ州というアメリカでは田舎の地域になります。
ちなみにファーゴはノースダコタ州の都市ですが冒頭の酒場のシーンしか舞台になりません。
豪雪地帯らしくこの地域は冬になれば雪で覆われて真っ白な景色になります。
道路も延々と雪に覆われた畑しか見えないようなところです。
セールスマンのジェリーは必死に車の塗装のオプションを売りつけようとします。
同僚がテレビで見ているのはアイスホッケーの試合。
車のフロントガラスはすぐに凍りつきます。
娼婦もどこかのんびりとしてます。
誰も使っていない小屋とかがあったり。
そこには斧や砕粉機が当然のようにあります。
そういったギミックたちのおかげで「ホラ話」のはずがリアリティを感じさせます。

人物の視点によってストーリーの大きさ

この映画ではジェリー、チンピラ2人、マージと大きく分けて3つの視点があると思います。
ジェリーにとっては金銭的な問題が片付けばいいという感覚で事の大きさが分からないのですが彼の舅がカールに殺害されたことから後戻りできないと始めて知るのです。
チンピラ2人組は金さえ手に入れば殺しも厭わないという類の人間なのでこの2人の視点だと観客は恐怖を感じます。
最後にマージの視点ですが警察としての職務をただ単に行っているので犯行現場を見ても淡々としています。身重の女性警官ということは本来では不利な条件になるはずがそこをマージという人物の物怖じしない性格が観客を安心させます。ちなみにこのマージ・ガンダーソンというキャラクターは「アメリカ映画100年のヒーローと悪役ベスト100」でヒーロー部門33位にランクインするほど人気らしいですね。
平和な町を暴れまわる誘拐犯チンピラ2人なのですが、最後の1人ゲアは女警官マージにあっさりと捕まります。
このピーター・ストーメア演じるゲアですが『ノー・カントリー』のハビエル・バルデム演じるアントン・シガーのような冷血な殺人鬼で作品中では威圧感が半端ないです。
誘拐したジェリーの妻が騒ぐからといって殺し、仲間のカール(スティーブ・ブシェミ)が用済みになったから斧で切断し砕粉機でバラバラにしてしまうような殺人鬼なのですが、女警官マージに見つかると一目散に雪原の中へ逃げ込みます。
マージの視点で見るとこのゲアもただの犯人の1人にすぎないというようなことなのでしょう。

まとめ
ストーリー自体は単純明快なのですが深掘りすればするほど色んな考察ができそうな豊かな作品だなと思います。メッセージ性が感じられないからこそ考える要素が多い。アカデミー賞とカンヌ映画祭のどちらも受賞しただけありそれだけ懐の深さがこの作品にはあるのでしょうね!
たかぽん

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