『silent』や『海のはじまり』の生方美久、ダウ90000の蓮見翔、劇団主催の根本宗子という、各章ごとにアラサーの若手脚本家たちがシナリオを担当するという企画映画。監督の奥山由之自身も33歳のポートレート系の写真を撮るカメラマンだし、役者たちもその世代の人たちが集まり、音楽はネバヤンの安部勇磨という念の入れようで、衣装の伊賀大介がお前だけ突然おっさんだな、という布陣だった。ただ、川沿いにひとつベンチがあるだけのワン・シチュエーションなので、演出自体にはあまり特徴はなく、見どころはやっぱり軽妙な台詞と巧みな演技になってくる。生方美久の#1と#5は、付き合う直前とその後の幼馴染たちの話。広瀬すずってやっぱり凄くないですか、こんなに整ったビジュアルなのにも関わらず、見ていてストレスのない天然な演技ができる若手役者って、他にはいないと思うんだよな。今回は、なんだか「こなれた」会話をするというキャラクターで、「たしかに自己肯定感が高い若者ってこういう喋り方するよな」というフォームを完璧に表出していて、これって天才的な憑依芸なのか、もしくは単純に素がこういう人なんだろうか。蓮見翔の#2は、客席からもいちいち笑い声が上がるくらいにいちばんウケており、コメディ要素では他の章とは確実に一線を画していた、さすがである。さいきん『旅館じゃないんだからさ』の配信を観たこともあってつくづく思うのだが、こんなにハイセンスなサブカルチャーが香る「あるある」を正しく選び取り、それを下世話なネタに再構成できるというのは、この人は坂本裕二の生まれ変わりか何かなんだろうか、坂本裕二は死んでないけど。ただ、固有名詞の使い方が上手なはずなのに、叶姉妹のくだりだけはちょっとすべってたな。今田美桜と森奈々が喧嘩する#3は、うーん、それが狙いなのかもしれないけれど、キンキンする女声の罵声が正直ちょっと観ていられなかった。監督自身が書いた#4は、映画の専門家じゃない人がここぞとばかりに気負って作った「やりすぎ感」があって、いまいちどうやって観たらいいのか分からなかったんだけど、しかしこのB級SFをまとったシークエンスがもし無かったと仮定すると、それはそれでこの短編集から背骨がなくなり、『THE3名様』とか『セトウツミ』みたいな映画と変わらない凡作になってた可能性があり、うんそうか、たしかに必要ではあった。
伊賀大介に「お前」呼ばわりしたのは岸井ゆきのに怒られそうだ。