複数の人々の夢に知らん同一の人物が登場するという「THIS MAN」の騒動をヒントに作られた本作は、かなり個性的な良作に仕上がっていて、僕は『マルコヴィッチの穴』を想起したんだが、当作がジョン・マルコヴィッチをキャスティングしたことで成立したのと同じように、今作は絶対にニコラス・ケイジじゃないといけなかった。トム・ハンクスだったらハイコンテクストだしポール・ジアマッティだと露骨だし、セス・ローゲンだとスカしてるしアダム・ドライバーだと下世話であり、ここはやっぱり、波平型ハゲにしたニコラス・ケイジ一択だったんじゃないかな。
ストーリーは明らかに近年の「バズ文化」を戯画化していて、まさにちょうどこの時代に語る必然性があった。主人公のポールはある日、自分の知らないところで有名人となり、無害にたたずんでいるだけのときには、不健全なほどの大人気を獲得する。そして、マイケル・セラがCEOの、「thought thought thought 」というキャッチフレーズがとっても胡散臭いベンチャー企業に勤めてたアシスタントの女の子に、バーとか家に誘われてどきどきしちゃうくだりをピークとして、そこからうっかり性欲や暴力性を匂わせちゃったとたんに、いっきに手のひらを返されてキャンセルしまくられるシチュエーションが始まる。しかも、そのネガティブなうねりって、けっきょくのところ、ぜんぶ彼の力が及びようのない、相手の夢の中で行われていることなのだ。彼の唯一の望みは、ジュリアンヌ・ニコルソン演じるとっても良心的で可愛い妻、その彼女の夢に出たかっただけなのに。だから、ラストシーンの、トーキングヘッズのコスプレで、馬鹿馬鹿しいくらいに幅広の肩パットが入ったジャケットを着たニコラス・ケイジの姿に、思いもよらない笑い泣きをしました。