12月は観たい劇場公開作品がそこまでないため、今年映画館に行くタイミングを逃したものをちまちまと配信で拾いに行く日々になりそう。そのひとつである本作、もっと姿勢を正して観なきゃいけない種類の「問題作」なんだと思ってたんだが、ぜんぜんそんなことはなくって、ふつうのアクションエンタメであった。もちろん、韓国の現代史なので、「あれ、そんな感じに描いていいのかな?」と心配にはなるくらいのシリアスなひやひやエッセンスではあり、アメリカのような個人主義の国でオリバー・ストーンの『ニクソン』やイーストウッドの『J・エドガー』みたいな映画が作られることに比べ、儒教文化が裏打ちされたアジアの地で、主人公のモデルとなった全斗煥元大統領をここまでヴィラン扱いしちゃうってのは、なかなか攻めている創作物ではないかな。しかも、国土も狭く資源もない韓国が、打算的にエンタメに力を入れ始めた結果、映画もここまで面白くなり、そういった「文化の輸出」で食い繋ぎ始めることができたというのは、まさに国策のおかげだったはずなんだが、でもこんなふうに過去の政権を皮肉ったフィクションを作るのって、許されるものなんだろうか、日本ではたぶんまだ無理だよね、この程度であれば笑って許してくれるくらいにもはやエンタメのレベルが成熟したんだろうね、それを実現できたのは、制作会社がHIVE media corpという、10年前にできたベンチャーだからなのだろうか、CJENMとかロッテみたいな大手ではなく、A24みたいな立ち位置の会社ってことなんじゃない?韓国文化に全く詳しくないので、何も確信をついたことを言えずにすみません。
全斗煥をモデルにしたチョン・ドゥグァンを演じたファン・ジョンミンは、僕のオールタイムベストに入る『哭声/コクソン』の祈祷師役を担当していた人であり、禿げてさらにずいぶんと魅力的な俳優になったねえ(追記、これはメイクということでした)。クーデターの最中、この人が窮地に追い込まれるたびに、卑近で狡猾な手技を次々に繰り出して解決していこうとするじりじりした生命力がどうしたって心強くって、どうにもクセになっちゃいますね。一方で、顔の作りと立ち居振る舞い的に「絶対にこっちのほうがヒーローでしょ」と一目瞭然な張泰玩をモデルにしたチョン・ウソンは、そうか『消しゴム』の人なのか、懐かし!この人の、悟空とかルフィのようなジャンプヒーローが持ち合わせる「正義だ!仲間だ!」という価値観を恥ずかしげもなく全面に出すパートも、それはそれで心地が良くって、だから観客はどっちの陣営に転んでもいい構図になってるんですよね。
しかし、史実は残酷で、僕らがヒーローだと思っていたチョン司令官の方はただの抵抗勢力だったということになり、チョン・ドゥグァンがその後の政権を担っていくことになる。しかし、政治というのは、どっちから見るかによって正義が180°変わるものなんだろうけど、ここまで偏向的に肩入れするのも逆に珍しいよねえ。