『満ち足りた家族』というタイトルが象徴する皮肉めいた家族の陰謀に物語は見事に収斂していく。兄であり、父親でもあるジェワン(ソル・ギョング)は道徳よりも物質的な利益を優先して生きてきた弁護士で、仕事のためなら殺人犯の弁護でさえも厭わない。2人目の年下の妻ジス(クローディア・キム)や10代の娘らと共に豪華マンションに住み、家事は家政婦に任せっきり。一方、弟で父親でもあるジェギュ(チャン・ドンゴン)はどんな時にも道徳的で良心的であることを信念に生きてきた小児科医で、年長の妻ユンギョン(キム・ヒエ)と10代の息子と共に暮らし、痴呆気味になった母の介護にも献身的に当たり、品行方正な日々を送っている。まったく相容れない信念に基づいて生きてきた兄弟だが、2人はそれぞれの妻を連れて月に1回、高級レストランの個室でディナーを共にしている。レストランのお得意様であるジェワン夫妻が常に優先され、兄弟家族同士の会話はぎこちない。そんなディナーの夜、時を同じくしてある事件が起こる。
「高級マンションで暮らす兄」と「要介護状態の母親と暮らす弟」という対立軸そのものが極めてオーソドックスで、位相を変えたとしてしても大した物語にはなりそうにない。然しながら育て方を間違えた子供、ある意味いとこ同志の暴走が中盤以降、突如駆動すると言えばどうだろうか?冒頭のカー・クラッシュからも明らかなように、当初は加害者の弁護を引き受けることになったジェワンと、被害者の娘の治療を担当することになったジェギュとの職業倫理感とは、実の兄弟であっても相容れないものだとは理解する。然しながら赤の他人ではなく、実の息子・娘となると話は違って来る。片や息子にモノが言えず、片や新しいお母さんを引き連れ、好きな物は何でも買い与える。中盤の父親同士の静かな心変わりと位相の変化。極めて図式的な月に1回のディナーの様子が突如熱を帯び、その作劇の妙にグッと引き込まれる。それにしてもいとこ同志が話した会話のフレーズにゾッとした。ないがしろにされなければならない命などないという怒りの感情と共に、この残酷さこそが韓国映画なのだと改めて実感させられる後味の悪さに、大いに考えさせられる。