デニロ

カンバセーション…盗聴… ‐4Kレストア版‐のデニロのレビュー・感想・評価

4.0
1973年製作。脚本監督フランシス・フォード・コッポラ。公開時に田舎で観た作品。上京して知り合った先輩とこの作品のことを話し合って、ラストでサックスを吹いて終わるっていうのが分からないと言ったら、あの中に盗聴器があるんだよ、と解説していた。

タイトルロールに、Production company/ The Directors Companyとあったので、そう言えばそんなのがあったな、と思いを寄せた。フランシス・フォード・コッポラ、ピーター・ボグダノヴィッチ、そしてウィリアム・フリードキンが参加した映画製作会社。すぐになくなっちゃったけど。作家が同居して上手くいったためしがない、の典型のような話。三人のお殿様振りを知っていれば、これはムリというものです。

ハリー/ジーン・ハックマンは同業者から一目置かれている盗聴屋。徹底した秘密主義で仲間内とも距離を保ち、それが元で腹心も去って行く。自分が愛する女にも本心を明かさず、興味本位で彼女の訊ねたプロフィールにも曖昧に応えるしまつ。それが元で彼女は去って行く。かつては司法長官からの依頼で、全米トラック運転手組合の汚職の証拠となる会話の録音を成功させたのではないかと、そんな噂も出るほどだ。その事件では、組合の委員長と会計責任者しか知らない情報が洩れているとして、会計責任者一家が惨殺されている。ハリーは、俺はテープを渡しただけで、その後のことについては関係がない、と言い切るのだけれど、でも、そのことは負債になっているらしく、話題にされるのはいやな様子。敬虔なクリスチャンでもある彼は、折に触れて懺悔もする。

そんな本当にあった事件を絡ませて物語を紡いでいく。

今回のミッションは、取締役という人物から、ある男と女の動向を知らせろという依頼だった。その依頼の意図は知らない。チームにもそのことは強く言い聞かせている。現在のハリーの本拠地はサンフランシスコで、今回のミッションをダウンタウンにあるユニオンスクエアで敢行する。冒頭のこのシーンの撮影は技術的に微に入り細を穿つもので、日本なら助監督の腕力が試されるところだが、本作では誰が仕切ったんでしょうか。見事なものです。納品に向かうと依頼主の取締役は不在で、秘書が代わりに受け取るという。が、直接依頼主に渡すという約束だ、とテープを持ち帰る。苦虫を潰したように秘書は言う。深入りするな。

拾われたカップルの会話を繰り返し聞いていると、ふたりは殺されてしまう状況にあるのではないかと、かつての一家斬殺を招いたミッションの罪悪感が甦ってくる。このテープは渡していいものかどうか葛藤が起こる。そんな折、盗聴に関する機器の見本市があり出掛ける。そこで知り合った女と一夜を共にするのだけど、なんとその女は依頼者が雇った女で。翌朝、録音テープは全部持ち去られていた。細心の注意を払って盗聴録音をして大統領兄弟の宿敵を刺したハリーがハニートラップに引っ掛かるのは、全く以て革命的警戒心に欠ける。

で、その盗まれたテープは痴情の縺れだったようなんですが、ここから先が、ハリーの妄想も含まれているんじゃないかという展開で白日夢のように断片が繋がらず、♬/抱きあげて つれてって 時間ごと/どこかへ 運んでほしい/せつなさは モノローグ胸の中/とまどうばかりの私/♬(セカンド・ラブ/歌詞:来生えつ子)、そんな状態。ハリーと観客たるわたしの観ているものは違うんじゃないだろうかというミステリアスなカットの連続。ゾクゾクする。

ラスト。引き裂かれた壁紙、剥がされた床板、狂おしいばかりに閉じ込められた空間でサックスを吹くジーン・ハックマン。サックスの中に仕掛けられている盗聴器、というのは、それは違うんじゃないかと、あの先輩の解説には異を唱えたくなった。

ハリソン・フォード、ジョン・カザール、シンディ・ウィリアムズ、ロバート・デュヴァルというゆかいな仲間たちも大活躍の一篇。

新宿武蔵野館 70/80年代 フランシス・F・コッポラ 特集上映 -終わりなき再編集-にて
デニロ

デニロ