舐めるように、ドライに
登山鉄道、ロープウェイを乗り継いでダムの近くのホテルへ通う女性。その場だけでの快楽と、さまざまな土地の事情を持って帰る表情の満たされている感じが伝わってくる。ホテルの内装はあまり映されないが、山あいに突然壁のように現れるホテルの存在感が印象的。昼下がりの情事の舐めるような官能表現と、それ以外のカラッとしたロケーションの対比も効果的で、山の大自然が日常からの解放感を最大限に引き立てている。
決まった服を着ていき、鉄道とロープウェイの決まった場所に乗り、金銭のやり取りはせず、その日のうちに帰って「出張中の父親から」というテイの手紙を投函する、という暗黙のルールを反復により見せたところからそれを崩していき、障がいを持つ息子との関係性の移り変わりを描き切る。
邦題タイトルもよかったが、山逢いのホテルは終盤には逢瀬とノスタルジーの場所に過ぎなくなる。過ごした家も象徴的な木々も山々もダムも、あふれる冒険心には敵わず、最後には泣き笑いの旅立ちで締められるロマンティックさにグッとくる。