このレビューはネタバレを含みます
独居老人を美化した『PERFECT DAYS』に対して、リアルに描いた不気味で生々しい不快作。
以下は物語。
庭付き戸建てに1人暮らす渡辺は、元仏文科の教授で、今は殆ど家から出る事なく、教え子からの原稿執筆などで孤高を凌いでいる。庭には井戸があり、教え子が水が出ないか試している。
友人に、預金残高と支出計算で、死ぬ日を決め、遺書には遺品の行き先を書き残していると語る。
夏。執筆の最中、時々、迷惑メールが来る。
ご飯を炊き、シャケを焼き、目玉焼きを作り、蕎麦には擦りゴマを入れる。綺麗な教え子が来るとワインでもてなすが、終電間近になりドキドキする。加齢臭に敏感で風呂場では石鹸でゴシゴシ洗う。
友人に誘われBARに行くと、オーナーの娘と称する女子大生にフランス文学を語っていると、彼女がお金に困っていると聞き、渡してしまう。後日、BARも彼女も消えてしまう。
冬。迷惑メールに北から敵が来るという記載がある。
亡き妻が現れ、パリに連れて行ってくれなかった事に小言を言われる。
編集部の教え子と性的関係になり掛かるが、夢にすぎない。現実と幻想が混濁してくる。
迷惑メールを開けてしまい、Macがウィルス感染したかの様になる。ある朝、お隣りさんが敵の事を語るが、彼は何処からともなく額を撃ち抜かれ、犬を散歩させている女も凶弾に倒れる。家に入った渡辺に北の浮浪者たちが迫る。
春になり、渡辺の遺言書が披露される。甥っ子が遺品の中の望遠鏡を覗いていると…
難解と賞されているが、古き良き昭和への懐古と、ネト右翼の神秘主義的メールに毒されていく独居老人の話というのが基本の骨格。
高いプライドの一方で、77歳でもオナニーをやめない哀しき男のサガ。
モノクロにした事で、筒井康隆の原作だが、寧ろ安部公房原作、勅使河原監督の不条理世界の様な品格を帯びた気がします。