元大学教授の渡辺儀助は数年前に妻に先立たれ、1人隠居生活を送っている。行きつけのバーでの友人との会話、偶に訪れる教え子の靖子との交流が気晴らしになっている。地味だが折目正しい生活を送る儀助だったが、下血して体調を壊したことをきっかけに、儀助の日常は変調をきたしていく…というお話。
長塚京三が75歳の主人公をリアルに演じている。1人暮らしでもさまざまな料理を自炊し、家事全般をそつなくこなす儀助は、独居老人の理想形である。自分が同じ年齢になった時、こんな端正な老人にはとてもなれない。若い頃はにしきのあきら擬きで変質者専門の役者という印象だった長塚が、こんな気品あるインテリジェンス溢れる老人になっているのが面白い。靖子を演じる瀧内久美は匂い立つような色気を発散して、儀助でなくてもよろめいてしまいそうだ。筒井康隆の小説の映画化でうまくいったのはウィークエンドシャッフルぐらいしか思い浮かばないが、この作品は久々の成功作だと思う。