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敵のiiのレビュー・感想・評価

(2025年製作の映画)
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嫁が死んで日々を送る元フランス文学の権威と言われた大学教授。生活の質を落とすことなく日々食べたい物を作って洗濯して歯磨きしてたまにバーに行って1日が終わる。朝からシャケを焼いたり、晩酌のために焼き鳥を串打ちしたり、夏の昼には蕎麦や冷麺を嗜む。テレビなんてものはなく、晩酌時や寝る前に本を読むのが楽しみ。
見れる。ずっと見れる寂しい老人の少し贅沢な生活。年金と貯金は日々目減りし、たまにある講演や執筆依頼でなんとか繋いではいるが、彼は生活の質を落とす気はなく、金が尽きた日がXデーだと決めている。そんな彼の日々が少しづつ変わっていく。

連絡手段のMacに毎日おかしなメールが来たり、隣人は犬の糞の後始末に激昂している、家には死んだ嫁が現れ、教え子から罵られるし、バーで会った若い女に金を騙しとられる。なんともやりきれない、だが品性のある彼の生活を覗くのは非常に興味深かった。夢であったり夢でなかったり、現実だったり幻覚だったり。現実と虚構の間をいったりするグレーなSF。筒井康隆節である。これといったちゃんとしたオチはないけどひたすら観れる。観れることが素晴らしい。ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地思い出した。
劇中に出てきたオペラグラス、『裏窓』と言っていたから『裏窓』観たくなったし、バーの女が言っていた『失われた時を求めて』も読みたい。

敵は?と言うところにみんな注目するだろう。老いか?認知か?金か?欲望か?
否、
そんなことを考えてスクリーンを見つめながらにたにた嗤ってるお前らが敵だ
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