なかずかい

ネムルバカのなかずかいのレビュー・感想・評価

ネムルバカ(2025年製作の映画)
4.5
原作未読。阪本監督の作品が好きなので観に行ったけれど、なるほどこれは阪本監督が撮るべき映画だったんだなと思った。めっちゃ良かった。
阪本監督常連俳優や特撮出演俳優が数多く出演されていたのでそういう意味でも面白かったんだけど、主演2人がまずとにかく良かった。
ライブハウスでの壇上の輝きに目を奪われながらも周囲に乗り切れていない柚美が、正に俺過ぎて、人混みの中から見つけ出してもらえたような気持ちが湧いてうるっときた。主演の久保史緒里さんはそんな、こちら側、の雰囲気をしっかり出されながらも厄介なバイト客や同僚を惹きつけるようなオーラも持ち合わせたバランスが凄く綺麗に出ていた。そんな柚美は慕っているバンドガールの先輩と同居しているが、この2人の関係性は一方通行に見えて結構共依存的で美しくもありどこか歪でもある。そんな阪本監督の十八番の関係性が、レコード会社?からのルカ先輩のスカウトにて終わってしまいその後に踏み込んだのが本作の結末である。
コンサートラスト、これまでの「自分」を捨てて別人に変わってしまった先輩には残り香、どころか当時の彼女の全てが残っていて、そんな彼女は我々の歪に空いた穴をしっかりと埋めて何処かに去ってしまった。ルカ先輩が居なくなったのは駄サイクルを結局捨てられなかったという自責なのかもしれないけれど、ルカ先輩は神話になり、新たに後輩が寮に入ってくれば穴を埋めてもらった柚美も誰かの穴を埋める側に回るのかもしれないし穴は永遠に埋まらないのかもしれない。
寮の部屋にあったかもしれない駄サイクルは確かにあって、自分は先輩とは違う世界に生きていると思っていても生活の何処かで先輩を支えていたし、確かに寝言で曲を与えていた。確かにあの頃の寮での関係性は、あの頃のちょいダサバンドは確かにあって、そういった過去が今を支えてくれているのかもしれない。
そして実は自分の寝言だった、というのも何もない自分が実は誰かの大きな核を作っていたのかもしれないという希望でもあるかもしれないし、或いはただの駄サイクルなのかもしれないし、そういう不確かなものが時間とかモラトリアムとかを形作るんだと思う。

あんまり良かったので映画館出て本屋をいくつか巡り原作を探したが見つからなかった。これから行く本屋で見つかることを祈る。
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