こなつ

キノ・ライカ 小さな町の映画館のこなつのレビュー・感想・評価

4.5
フィンランドの名匠アキ•カウリスマキが故郷カルッキラに仲間たちと作った映画館「キノ•ライカ」のドキュメンタリー。アキ•カウリスマキのファンとしては至福の81分だった。

深い森と湖、豊かな自然に恵まれたカルッキラは、19世紀初めに製鉄所を中心にできた労働者の町。カウリスマキが今は使われなくなった鋳物工場を見つけ、共同経営者で友人の作家ミカ•ラッティとともに、映画館へ改装しオープンするまでの記録が撮影されている。冒頭このドキュメンタリーの監督とプロデューサーであるその妻が車でカルッキラを走りながら会話をするシーンから始まる。

カウリスマキ自身が館内で内装などの作業をする姿が映し出され、近年移り住んできた多くの芸術家達のインタビューを交え、カウリスマキの世界観が迫って来る。「枯葉」にも出てきた鋳物工場、「真夜中の虹」の64年型キャデラック、カウリスマキの作品で歌う日本人篠原敏武さん、十数年間、週に1回開かれる友人達との集い「ナマケモノ会」、俳優やスタッフの話なども非常に興味深く、まるでカウリスマキの映画のような温かさを感じた。

カウリスマキの作品にはいつも犬が出てくるが、ライカは愛犬の名前。カウリスマキの妻である画家のパウラ•オイノネンも初めて見た。キノ•ライカのこけら落としとして上映されたのは「コンパートメントNo.6」。監督のユホ•クオスマネンが開館前日に仕上げを手伝っていた。ドキュメンタリーに出てくる全ての人がカウリスマキを好きで敬愛しているのが伝わってきて胸が熱くなる。

監督は、ドキュメンタリー長編作品初のヴェリコ•ヴィダク。画家でもある彼の映像は、自然体で美しく心癒される。カウリスマキの作品と通じるものがあった。

労働者を主人公に撮り続けるカウリスマキ。「人口9千人の労働者の町カルッキラに何かお返ししたかった」という彼の想いが詰まった素敵な作品だった。
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