無名の若者だったボブ・ディランがフォーク界期待の新星になり、やがてエレクトリックサウンドに転向して世界に衝撃を与えるまでの5年間(1961年〜65年)を描いた音楽青春映画。
この作品は、イライジャ・ウォルドの著書「ボブ・ディラン 裏切りの夏」を元に、ジェームス・マンゴールド監督がメガフォンを取った。
若い時のボブ・ディランのことは今回作品を観るまではあまり知らなかった。半世紀以上にわたり沢山の人に多大な影響を与え、歌手として初めてノーベル文学賞を受賞したボブ・ディランが、83歳になった今でも「ネバー・エンディング・ツアー」という公演で活動していることには驚かされる。
多くの人が感じたように、ボブ・ディランを演じたティモシー・シャラメのボーカルやギターを弾く演技は素晴らしかった。独創的な音楽を生み出し、若くしてスターになった孤独なボブ・ディランをティモシー・シャメルが好演。
日本でも多くの人がカバーしている名曲「花はどこへ行った」を作詞作曲したピート・シーガー(エドワード・ノートン)が、いち早くボブ・ディランの才能を認めて成功を後押しした。しかしその後、ボブ・ディランのエレクトリック転向を巡って2人に激しい衝突が起こる。その時代、フォーク・リバイバル運動の中心人物だったピート・シーガーが、フォーク音楽を大切にしていて守ろうとする気持ちが強かったのだろう。恩人のそういう気持ちを理解出来ないほど、その時のボブはまだ子供で傲慢だったのかもしれない。ピート・シーガーの妻トシを「終戦のエンペラー」で日本人ヒロイン役に抜擢され、ハリウッドに進出した初音映莉子さんが演じていた。日本のドラマや映画でも最近は見かけていなかったのでとても懐かしかった。凛とした佇まいでピート・シーガーに寄り添う美しい妻を好演。
ティモシーと同様美しい歌声を披露したジョーン・バエズ役は、「トップガン マーヴェリック」の女性パイロット、フェニックスことナターシャ役のモニカ・バルバロ。ジョーン・バエズの「ドナ・ドナ」や「朝日のあたる家」は大好きな歌だけれど、ボブ・ディランと一緒にステージに立っていたことを初めて知る。モニカ・バルバロの歌声にも魅了された。
一流の演者たちが、本物に負けないパフォーマンスで作り上げる物語は本当に素晴らしい。オスカーは逃したが、とても良い作品だった。