柏エシディシ

ザ・レディ・イン・オーケストラ: NYフィルを変えた風の柏エシディシのレビュー・感想・評価

3.5
NYフィル初の女性演奏者オリン・オブライエン。1966年彼女を抜擢したのはレナード・バースタイン。
エイミー・アダムスを思わせる好奇心と知性に満ちた双眸が印象的。
失礼ながら87歳とは思えない快活な様子で、門外漢の自分も一気に好きになってしまった。
彼女の引退を機に、姪モリーが撮ったドキュメンタリー。
自らの偉業を特別でないと謙遜し、褒め称えるモリーの言葉にかえって不快な表情すらするオリン。
ハリウッドスターであった両親のキャリアの趨勢が彼女の為人を作ったのかもしれない。
コントラバス奏者としての"他の奏者のための安定した土台となる"という彼女の矜持、そして主役にならない自身の立場をして「ここで演奏することを私以上に楽しんだ人はいない」と強く断言する姿は清々しい。
どうしたって、ミュージシャンやアーティストを観る時に、華々しいスターに着目してしまうし憧れるけれど、他人の評価など気にせずに自分が本当に楽しめることに集中し、ひとつのアートの一部である事を受け入れ奉仕する姿は、観ている私達に教えてくれる事も多いと思う。
もちろん、男性優位なクラシック界で女性奏者の先駆として彼女がこの境地に至るには紆余屈折あっただろうし、本作の短かさではそれをとても描き切れていない。
とても勿体無いが、その慎ましさもオリン・オブライエンという人の意向なのかもしれない。
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