TAAF長編コンペ。
まだ戦争の傷跡が残る、1949年のフランス。
絵の好きな10歳の少年フランソワの父ピエールが、突然家の庭に船を建てはじめる。
父は19世紀末に単独帆走での世界一周を成し遂げたジョシュア・スローカムに憧れ、彼の船スプレー号を、忠実に再現しようとしている。
映画は成長しパリの画学生となったフランソワを語り部に、平凡な少年時代に突如としてはじまった非日常の日々を、パステル画を思わせる淡いタッチで描いてゆく、ノスタルジックな青春ストーリー。
齢85歳の巨匠ジャン=フランソワ・ラギオニ監督作なんだけど、名前も歳も同じだしエンドクレジットに船を作る男性の写真が出てきたから、自伝的な作品なのかも知れない。
時には手伝い、時にはやらかしてビンタされ、主人公は適度な距離感で船作りに没頭する父の姿を見ている。
これ最終的に船が完成するのかが最大の興味だが、ネタバレゆえに言えない。
しかしモノ作りって、結局作ってる間が一番楽しいってところは、主人公の視点がモノ作りする人になった現在のラギオニの視点と重なり、過ぎ去った過去に対する郷愁と共に、深い共感を感じさせる。
現実と虚構は、心の中で一体化する。
父も、強い絆で結ばれたパートナーである母も、船を作りながらずっと世界一周の航海をしてたんだよね。
味わい深い、巨匠の入魂の一作だった。