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ロスト・アイズのEikeのレビュー・感想・評価

ロスト・アイズ(2010年製作の映画)
3.6
監督のギレム・モラーレスはスペイン、バルセロナ出身で本作が長編2作目。
ご覧になった方ならお分かりでしょうが、過去のジャンル・ムービーへの敬愛がストレートに伝わってくる内容になっております。
「暗くなるまで待って」や「裏窓」といった作品のパスティーシュと言った趣もありますが非常に生真面目な作風であることもあって浮ついた雰囲気はありません。
「永遠のこどもたち」でも好演を見せたベレン・ルエダがここでも熱演を見せてくれております。
スペイン映画らしいなぁと感じるのは多分にホラー色も入った作品でありながらもあくまでシリアスなドラマとして作られている点。

急速に視力を失いつつあるヒロイン、フリアがその事実に怯えつつ、自ら命を絶った双子の妹サラの死の謎の真相を探って行きます。
その過程で浮かび上がる「誰にも見えない男」の存在、そしてその人物の新たな魔手は意外な形でフリアに迫って来る..。

サスペンス/ホラージャンルの作品という事で当然、お約束的展開・描写も散りばめられておりますが、そういう場面を繋いだだけの作品になってはおりません。
きちんとヒロインの苦悩や葛藤が前面に打ち出されており、それがゆえに少々長めの上映時間(118分)でもラストまで緊張感は途切れない。
比較的ゆっくりとしたテンポで描写もさほど過激なものではありませんから物足りないという方もいらっしゃるでしょうね。
しかし、こういうシリアスなタッチのジャンル作品も最近では貴重な訳で久々にサスペンス映画らしい作品として満喫いたしました。

「そこに存在するのに見えない男」という犯人像とフリアに魔手を延ばす歪んだ心理は中々に興味深い。
いびつな心の奥底で渇望してきた周囲からの関心が冷徹な視線として自らに向けられる事となるクライマックスの皮肉な展開も中々意味深。
この犯人の動機を含めて「情の物語」となっている辺りがスペイン映画らしいとも言える気がいたします。
決して甘くないエンディングもフリアのイサクへの思いが伝わり、その点が仄かに癒しをもたらしているようで深い情感が残ります。

アメリカ式のスピーディーでスタイル優先のサスペンス映画とはかけ離れた作品ですがドラマとしても見応えがあって満足感を与えてくれる良作のサスペンス映画だと思います。

ギレルモ・デル・トロ監督、アメリカだけでなく他のスペイン語圏でも積極的にプロデュースする姿勢を続けており、人材の育成に力を注ぐ辺りは頼もしいですね。
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