生まれた環境要因などを無視して一方的な「社会的規範」を持ち出し人を裁く裁判官への復讐のために自身を刑務所に入れた裁判官を誘惑し恋に落とすが、彼は彼女に本気で恋をしてしまい……というお話

ファム・ファタール的なフィルム・ノワールにジェンダー的批評を組み込んだような作りになっていて面白い。主人公が大事にしていた裁判官としての「正しさ」が無敵の人と化した同僚と女性によって覆され、堕ちていくまでのテンポが良い。幻聴に絆されて家のドアを開けた次のカットで女性の家に辿り着いているテンポの良さ！
復讐計画が男の執着によって狂わされ、様々な思惑も絡み合って事態が複雑化していく中盤以降はフィルム・ノワールとしても良く出来ており、家父長的な家庭の崩壊と破滅としての側面もある。そして何よりラストでカメラが傾く瞬間！あとあのラストカット！
常に40〜50年代のフィルム・ノワールらしい映像だからこそ、ラストでカメラが傾き怯える女性を追いかけるショットに震える。面白かった！

ラング『スカーレット・ストリート』のアクの強い版というか。冒頭、追い詰められる女と窓の外の点滅するネオンなんかからして完璧にそれ。撮影もちゃんとノワールしていて良かった。ラスト、息子をぶん殴る血迷った親父の場面でさすがにアホすぎて笑ってしまった〜

キャラクターがあまりにも欲望にまっすぐ。
繊細さのかけらもないのでノワールになり切れないコメディに近づいていく。
ブニュエルっぽいと言われれば確かにそんな気もした。