もとまち

狙撃者のもとまちのレビュー・感想・評価

狙撃者(1971年製作の映画)
4.1
ニューカッスルのうら寂れたロケーションが素晴らしい。乾いた暴力の気配に満ち満ちている。重くのしかかるような曇天、工場地帯から漂う煤けた空気、レンガで造られた焦茶色の建物群、身内ばかりの排他的なコミュニティ。こんな場所に住んでいたら簡単に精神を病んでしまいそうだが、この映画に出てくるのも見事に狂人ばかり。マイケル・ケイン扮する主人公のジャック・カーターからして既にイカれてる。クールでエレガントな雰囲気を身に纏い、皮肉を口にするのが大好きな生粋の英国紳士。しかしその本性は恐ろしいほどに冷酷。復讐のためならば男も女も見境なく死に至らしめる。そこには清々しさなんて欠片もなく、ただ虚無と寂寥があるのみ。姪の生活を心配したり、子供たちに微笑みかけたり、カーターの人間的な側面も描かれはするが、彼の瞳は常に死にきっている。終盤でようやく明かされる兄の死の真相にも愕然とした。薄汚い田舎町の裏で渦巻く性と暴力のおぞましさを集約させたような真実。それを涙ながらにただ見ることしか出来ないカーターの無力。彼の怒りはここで頂点に達し、物語を陰惨な結末へと導く。海に捨て去られる死体。波打ち際の狙撃と死。静かに響き渡るロイ・バッドの劇伴。暗転。70年代バイオレンスらしい無情のラストが忘れられない。
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