深獣九

レックの深獣九のレビュー・感想・評価

レック(2007年製作の映画)
3.5
久しぶりに映像で恐怖を味わった。
残虐シーンは少ないのだが、物語のリアリティと主演女優の演技にやられた。

突然アパートがまるごと封鎖され、住人と事件を調べに来た警官、消防士、消防士を取材していたテレビクルーが閉じ込められた。理由は徐々に明らかになってゆくし、正直それほど目新しくはないのだが、きちんと辻褄が合っているから、余計な心配せずに観ていられる。ラストにもうひと盛り上がりあるのも、満足度を高くしている。尺も77分とお手頃だ。

リアリティについては、役者に高評価を与えたい。子を持つ母親、日本人家族、老夫婦、イケメン気取りおっさん。この状況ならこうなるだろうという芝居が、派手でもなく地味でもなくちょうどいい。さじ加減は監督の手腕もあるだろう。

主演女優の恐怖芝居も、塩梅が素晴らしかった。特にクライマックスはぐっときた。

POVも一役買っているかもしれない。揺れ動く粗い映像は、細かな瑕疵を覆い隠す。演出の勝利。

つまり、すべてががっちり噛み合って良作が生まれた、ということ。監督冥利に尽きるだろうな。興行としてはどうだったのかわからないが。

まるで異界に取り残されたような恐怖。ドア一枚隔てた向こうはいつもの日常世界なのに。もし自分があのアパートにいたらたまらない。襲われる前に恐怖で逝くだろうな。
深獣九

深獣九