素晴らしい!
鑑賞後に1人で拍手してしまう作品はそんなに多くない。自分には珍しく、お話の出来栄え云々はほとんど度外視でこのスコア。
切り絵というか、影絵による作品。
登場人物、建物、植物、動物、魔物から背景に至るまであらゆるヴィジュアルがエキゾチックで刺激的。動きの歪さもむしろ味わいに感じられて、奥からの光の色分けも作品全体をより華やかでスタイリッシュなものにするだけでなく、シルエットだけでは分かりづらい場面転換のシグナルにもなって効果的だったと思う。およそ100年前の作品というのが信じられないほど、前衛的な雰囲気さえ感じる。
DVDに特典映像が収録されていたので併せて観てみると、この作品を生み出したのはドイツのロッテ・ライニガーという女性監督だった。影絵による映像作品が出来るまでの工程は、予想通り繊細で緻密な気の遠くなるような作業だった。黒い厚紙をハサミで切って人形を作り、それを少し動かしては撮影することを延々繰り返す。これをほとんど1人でやったのか…?だとしたら60分程のこの作品を完成させるのに一体どれだけの時間が…
実写による作品を撮るのでも、ゴリゴリのCG作品を作るのでもそこには時間も苦労もお金も存分に掛けられているはずだけれど、今作のような作品はお金はともかく作り手が掛けた時間と苦労がよりダイレクトに伝わってくるから無意識に好感を持ってしまうのかもしれない。
今後AI技術の向上で精度が上がって、限りなく人間の手で作られたものに近い影絵のようなアニメーション映像が生成出来るようになったとしたら、もはやそれを人間が作ったものかAIが作ったものかを見分けることは出来なくなってしまうのかもしれない。
でもそれでも、そこに人間の手がどれだけ加わっているか否かの事実次第で作品の受け取り方はどうしても変わってしまう気がしている。現時点では。そこに自分が映画やあらゆる芸術作品のどこに心を動かされるかのヒントが隠されている気がする。
才能とは、継続力、持続力、忍耐力のような力だと最近つくづく思う。大切なのは要領の良さではなく、飽きずに続けられる力。