櫻イミト

出発の櫻イミトのレビュー・感想・評価

出発(1967年製作の映画)
4.0
「早春」(1970)のイエジー・スコリモフスキ監督がベルギーで制作した出世作。前年のゴダール作品「男性・女性」(1966)のジャン・ピエール・レオ&カトリーヌ・イザベル・デュポールが主演。カメラも同作のウィリー・クラントが務めた。ベルリン国際映画祭金熊賞。

ベルギー・ブリュッセル。19歳の美容師見習いマルク(ジャン=ピエール・レオ)はレーサーを夢見ている。車を持っていないのにラリー大会に申し込んだ彼は、何とかポルシェを入手しようと駆けずり回る。その途中で知り合った娘ミシェール(カトリーヌ=イザベル・デュポール)も手伝ってくれるのだが。。。

「大人は判ってくれない」(1959)の後日映画はトリュフォー監督が数本作っているが、本作も後日ルートのひとつに思えた。ファーストカットで黒いタートルネックのセーターから顔を出すジャン・ピエール・レオには、アントワーヌを思い浮かべずにはいられない。護送車の鉄格子の窓から涙を浮かべて街並みを見つめていた少年は、本作ではポルシェに乗って自由に走り回り、鑑別所から海に向けて歩いた雑木林の風景を爆走する。その姿は自由(freedom)そのものだ。

友達とポルシェを盗もうとする姿も同作のタイプライター持ち出しと被って見える。本作では次なる成長過程として異性との出会いが用意されている。ミシェールの生い立ちを聞き、初めて他者と向き合った主人公の真顔。子供っぽかった過去の夢は焼却され、恋人との道を選んだその姿は、自らの意志で選ぶ自由(liberty)への目覚めを感じさせる。微笑ましくて懐かしく、感動的だった。

全編に流れるジャズとクリスチアーヌ・ルグラン(ミシェル・ルグランの姉)の歌も心地よくマッチしていた。ヌーヴェルヴァーグの良いとこ取りをした可愛らしくリリカルな青春映画の佳作。
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