ピンクベースのライトグレイッシュなトーンでまとめられたかわいくておしゃれな色調。シンプルな線で描かれたユルいキャラクター。登場キャラクターはデフォルメされた動物の擬人化であるにも関わらず、相手を性的な目で見ているというニュアンスが伝わるのはすごいと思った。
内容はというと、主人公のトーマスは道徳的に正しく生きようと筋を通した結果、家族の生活のためにと不道徳に染まってしまうという面白さがある。そしてそれを流されるままに受け入れるようになってしまうトーマスの軽さがとても良い。日本人が本作のようなストーリーを描くと堕落した悲劇の話としてか、ベタでありきたりなギャグとして描いてしまいがちになるように思うが、そうはならない感覚がすごく新鮮で素敵に感じる。また、妻のヴィヴィの目覚めた“強い女性”という形がそっちかよ、とクスッと笑ってしまう。
本作はジェンダーや性的役割分業、性的搾取へのアンチテーゼがテーマとしてあるのであるのだろうが、本作はそうした主張を強く主張するわけでもなく、始終ふわふわとした皮肉なギャグにしているところも本作の魅力である。

最終的に家族の形は“fix”したのかというと、それは一般的な感覚でいえばどうかわからない。しかし、トーマスもヴィヴィも自分の才能を見つけて、それを活かして自分らしく生きていけるというのは幸せなことであるように感じる。
本作を観ていると、規範やら常識に捉われずに肩肘張らずに自分らしく生きていいんだと言われているようで、とても気が楽になる。定期的に癒しとして観ておきたい作品のひとつであると僕は感じる。

EUフィルムデーズ2025