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日曜日には鼠を殺せの一人旅のレビュー・感想・評価

日曜日には鼠を殺せ(1964年製作の映画)
4.0
フレッド・ジンネマン監督作。

スペイン内戦後フランスへ亡命したゲリラのリーダーと、彼を捕えることに執念を燃やす警察署長の姿を描いたサスペンス。
アメリカ映画ということもあり、立場的には自由を求め戦い続けたゲリラ、マヌエルに同情的な物語になっているが、マヌエルと警察署長両者に政治的信念のようなものはほとんど感じられない。内戦の勝敗が決してから数十年経過した後でマヌエルは目的もなく故国スペインに戻ろうとする。警察署長も、政治体制を脅かす存在としてマヌエルを認識しているわけでない。むしろ、長年に渡って戦いを繰り返してきたマヌエルに対する個人的な憎しみの感情が彼の復讐心を駆り立てているのだ。
「何のためにスペインに戻るのか?」
警察署長は疑問に思うが、理由なんてない。故国スペインに戻ること自体がマヌエルの目的だ。政治的理由で決別してしまった故国と故国に残した母のもとに帰ること、それ自体が目的なのだ。戦いを続けるためではなく、自身の心残りを晴らし、全てに終止符を打つために戻るのだ。宿敵であるはずの警察署長の存在が、皮肉にもマヌエルをスペインの土に返らせる物語に何とも言えない物悲しさとやりきれなさを感じる。
マヌエルに扮したグレゴリー・ペックの演技が素晴らしい。自身の運命を覚悟しながらもスペインに戻ることを静かに決意する姿に哀愁が漂う。警察署長に扮したアンソニー・クインの並々ならぬ執念と闘争心、マヌエルが辿る末路を静かに見届けるオマー・シャリフの悲しみの表情も印象的だ。
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