CHEBUNBUN

秋立ちぬのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

秋立ちぬ(1960年製作の映画)
4.0
【牧歌的なレールは地獄へと続く】
東京へ上京し、親戚の家へ居候することとなった少年の夏を描いた作品。前半は「ぼくのなつやすみ」たる牧歌的演出が目立つ。例えば、銭湯で都会っ子に馬鹿にされた少年が水をぶっかけ闘いをしかけるシーンのじゃれあい具合に始まり、立ち入り禁止区域で野球をしているとちびっ子もフェンスを潜り参加してくるが、警備員に怒られ蜘蛛の子を散らすように去っていくところに長閑さを感じる。

しかしながら、旅館に住み込みで働くこととなった母が突如、駆け落ちして失踪してしまってからシリアスなドラマへと転がっていく。少年に想いを寄せる少女からは「中年の女は危ないよ。あなたのかあさんも中年の女でしょ。」と強烈な言葉を吹っ掛けられる。

折角、牧歌的な空気の中、母を恋しがる気持ちが薄まってきた中でこの落とし方をするとは成瀬、恐るべしと思う。そしてキーアイテムであるカブトムシの存在を最後まで維持することで牧歌的であろうとするところにまた凶悪さを感じた。なんたる地獄だ。
CHEBUNBUN

CHEBUNBUN