垂直落下式サミング

君に届けの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

君に届け(2010年製作の映画)
4.8
今さら『君に届け』にハマってます。同世代の女子たちは、僕らがエースの処刑と白ひげ対海軍の戦局に一喜一憂しているころ、こんな進んだもん読んでたんだね。どうりで大人っぽいわけで…。
超シンデレラストーリー。よくある設定じゃないすか。実は性格いいんだけど目立たない地味子ちゃんが、スクールカーストトップのイケメンに見初められて…なんてさ。
ちゅーはおろか、告白もせず、手すらも繋がずに、花も恥じらう二人の距離は近寄るか離れるのか、何ページものあいだやきもきし続ける。これが君に届けだったのか!めっちゃいいじゃん!
恋愛を描く少女漫画の王道への色んな偏見もあっての食わず嫌いだったけど、まずこういうコンテンツに疎い僕の目からみても主要人物の好感度が軒並み高いことに驚いた。
ラブコメって、交際というゴールテープを切る主人公の走りを目で追いかけるだけのダービーゲームか、もしくは一番のイケメンと付き合えたやつとそれ以外の勝者と敗者の残酷な物語だと勝手に思っていたけれど、なるほど、それだけではない。認識を改めました。
主人公の爽子は、お姫さまとしてただ引き上げられるのを待っているだけの人ではなくて、風早くんをもっと振り向かせようとがんばる過程で、同級生たちとの友情であるとか、自分自身の真の強さであるとか、今後の人生を幸せに生きていくために必要な聡い精神性を獲得していくのである。
自分に自信のなかった女の子が、本気で誰かを好きになることで、自己評価を高めていく姿は、本当に素敵だしかわいらしい。恋愛を本人の成長の物語として突き詰めていけば、こんなにも美しい物語となるのかと。
完璧にかっこよくて、完璧にやさしくて、ちょっと抜けてるとこまで天才的な、風早くん。甘酸っぱさを擬人化した姿なんじゃないか。
たぶん今現在の20代後半~30代前半女子たちの心のなかには、理想のボーイフレンドとして風早くんがインストールされているのだと思う。だからこそ、皆さんもらい事故みたいなのが耐えないわけで。
残念ながら、大多数の有象無象はどうしたって風早くんにはなれない。絶対ムリだもんな。サイゼリアで喜ぶ彼女のイラストとかみて溜飲下げてる側なもんですから(話題が古くて申し訳ない)カッコつけるわりに期待外れなことばっかでごめんなさいだけど、これは君届の残した功罪じゃない?
超ニワカのくせに略称とか使って申し訳ないけど、これの楽しみかたをもっと早く知れていたら、僕はもう少し違う人生を歩んでいたと思う。そんなわけで、気恥ずかしさなしで「君届」って言える人間になることを当面の目標として生きていきたいと思います。
もうひとつ面白かったのは、脇役たちの扱い。当て馬や負けヒロインとして雑に処理される人はほとんどいなくて、絶対正義な爽子と翔太の周囲では、少女マンガらしいフったフラれたでやいのやいのしてるのが盛り上がるし、お似合いのカップリングがやんわりと示唆されながらそっちも付かず離れずで続いていくから、しっかりと各々のキャラクターに血の通った息づかいを感じる。椎名軽穂先生が登場人物の全員に幸せな未来を用意してくれているような気がして、その手の行き届いた優しい気遣いには感謝しかないっすよ。
劇場版もけっこうよかったです。多部未華子も三浦春馬も好きな俳優。Netflixドラマもみる予定。少女漫画に感情を動かされるオッサンになるとは思わなかった。もう少し頑張ったら、バチェラージャパンも楽しめるようになるのかもしれない。