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マイレージ、マイライフのmasatのネタバレレビュー・内容・結末

マイレージ、マイライフ(2009年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

前作『JUNO』(07)『サンキュー・スモーキング』(06)を経て、本作で21世紀の期待の若手監督の地位を、映像作家として不動のものにした。
見事な映像センスと編集と共に、目の前に映し出そうとするテーマはシンプル。
人間の“しあわせ”とは何か?

兎に角、前2作もそうだが、いつも以上に難しい線を行こうとする、その探究心とテクニックは、見事としか言い様がない。

自分を完璧な仕事師と思い、完璧なライフスタイルを構築していると信じ切る“首切り役人”は、新たな新入社員の有り様を見て、考える。
その新人は、まさに2020年の社会を、ニューノーマルを予見したかの様なシステムを考案し、会社の方針を変える。この新人類の圧力、そのスタイルへの恐怖を感じた時、今までの自身の仕事について振り返る。その冷徹なリモートシステムは、首切り役人としてのこれまでの自分の方針は、まだ人間的であった、と実感するが、その近づく新時代の足音に抗えない。
片や、そんな新人類も、リストラという仕事をよりシステマチックへと導こうとする自分に自己嫌悪し、大きな壁にぶつかる。
そんな時、首切り役人は、理想的な女性と出会う。自身のライフスタイルへ適応し、かつ、彼女も自身のスタイルを持っていた。次第に首切り役人は、自身の生活、ライフシステムへ、より深く彼女を誘おうとする。結婚という心情が最高潮に達した時、彼女には、完璧な家族がいるという事実を知った・・・

首切り役人は、自身の仕事の変化、進化、逆戻りの中、自分の生活、そしてこれまでの人生を振り返る。
そして、結論に達する!これまででイイ。これまでの自分でイイ。そんな自身を発見し、改めて愛することが、最高の“しあわせ”なのだと、アメリカ大陸を横断し、マイレージ・キングとして飛び回りながら、それほど遠く無い時代の鼓動を感じつつ、「余分な荷物を持つな!」という持論は既に揺らぎつつあるが、だが、ほっと胸を撫で下ろす、そんなラストカット。
また、自分自身の心の有り様によって、世界がこれほど開かれているという事を教えてくれたのは、首を切った人々のリアクションの瞬間以上に、二人の女、だった。新世代の若き闘志と、自身の鉄壁のライフスタイルを構築した、言わずと知れたセフレだった。

自分を受け入れることの困難さと素晴らしさ、それこそが次の段階へと進むことができる大きな手掛かりなのだ、という事を大らかにエッジーに教えてくれる名画。

私は自分自身が嫌いである。しかし、残念ながら自分に飽きてはいない。
と、とあるロッカーが言っていたが、そんな心情を思い浮かべた。

ライトマンは、前2作で、どんな闘いをしても、“家族”がいる事、信頼する事を頑なに信じ、感動的に描いてきた。
その反動だろうか。名優ジョージ・クルーニーは、まるで家がないほど大陸を飛び回る独身を演じ、勿論、家族を持っていない。印象的なのは、年に数回しか戻らないマンションの一室。ホテル以上に無機質な、空虚な空間だが、だからと言って、そんな男を悲観的に捉えている訳では無いのが、21世紀の映画人らしい。
孤立無縁のそんな男にも、姉が居り、そんな姉の悲願の写メ撮影を執拗にとり続けるのが笑える。また、男に影響を与えるのは、全く違うカルチャーの持ち主や、自分の確固たる世界を維持している人、そんな異性であると言うのが、これまた男心を鋭く突いている。
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