Omizu

奇跡の丘のOmizuのレビュー・感想・評価

奇跡の丘(1964年製作の映画)
3.9
【第25回ヴェネツィア映画祭 審査員特別賞】
パゾリーニの長編三作目。ヴェネツィア国際映画祭で審査員特別賞、アカデミー賞でも音楽賞・美術賞・衣装デザイン賞にノミネートされた。

原題は「マタイによる福音書」で、その内容を割と忠実に映画化した作品。『豚小屋』でみせたような強烈な風刺はないし、『アポロンの地獄』ほどのぶっ飛んだ時代解釈はない。

ただしセットなどをあまり用いずイタリアの風景そのままに撮影し、劇的な演出も用いないことで逆にリアリティを持ってキリストを描き出すことに成功している。

サロメのシーンなんかはもっと劇的なシーンにいくらでもできそうなのにあっさり。

淡々とした調子で進んでいくが、パゾリーニはあまりキリストを良く描こうとはしていないように思える。彼自身無神論者、コミュニストだったし、本作でのキリストは救世主というより自分勝手な独裁者のよう。演説シーンなんかはヒトラーみたいだなとさえ思った。

キリストという難しい題材、淡々としたカメラワークや演出でもここまで観られる作品になったのはパゾリーニの魔法としか言いようがない。ストレートなキリストの伝記ものとしても観ることができるし、大筋は変えていないのにパゾリーニ独自の視線が感じられる不思議な作品だった。
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