Koshi

ゴッドファーザーのKoshiのレビュー・感想・評価

ゴッドファーザー(1972年製作の映画)
4.6
「素晴らしきファミリー愛」

【はじめに】
 1本の映画の質をはるかに凌駕している。鑑賞後に果てしなく続いたあの余韻を忘れることができない。時代を超越する普遍的な面白さが本作にはたっぷりと詰まっていた。この作品を鑑賞したのは今回で3回目であるが、本当に何度見ても飽きることがない。文句無しのマスターピースだ。淀川長治氏の言葉を借りれば、本作は「まさにコッポラの記念的代表作*」なのである。上映中一度もトイレへと席を立たずに鑑賞し続けた自分を褒めてあげたい。

【物語の概要】
 シチリアからニューヨークへ渡り、一代で巨万の富を築いたドン・ヴィトー・コルレオーネ(マーロン・ブランド)。本作は彼とそのファミリーを中心に巻き起こるマフィアの抗争と家族愛を描いた壮大な物語である。

【本作の魅力】
 マーロン・ブランドが纏っていたマフィアのボスとしての貫禄に惚れ惚れとした。彼の発するあの魅力的なしゃがれた声がめちゃくちゃカッコイイのだ。このヴィトーの口から放たれる言葉はどれも深みがあるものばかり。言葉の重みというものが、他の者とは段違いなのである。「男というものは、油断してはならない」。このヴィトーの言葉には、背筋を伸ばす思いで耳を傾けたものだ。

 「ファミリーを大事にする」。このヴィトーの考え方が大好きだ。自分は裏の世界へ進んでしまったが、子供には表の世界で活躍してほしい。そんな夢をヴィトーは末っ子のマイケル(アル・パチーノ)に託していた。この夢を死ぬ間際にマイケルへと伝えるヴィトーの気持ちを思うと、やりきれない気持ちになる。私もマイケルが「コルレオーネ議員」となって、政治の世界で活躍する姿を見てみたかったなあ。
 また、ヴィトーはいちマフィアのドンであったが、決して麻薬には手を出さないという強い信念を貫いていた。このことからもヴィトーの人柄がよくわかる。家族を何よりも大切に思い、マフィアだからといって麻薬などの犯罪に手を染めることはしない。彼のこの生き方に憧れた人たちは多いはず。外見だけでなく、中身も最高にカッコいいヴィトーは、まさに「男の中の男」だ。ヴィトーから学ばないといけないことはまだまだたくさんある。このことを観返す度に毎回思わされるものだ。

【1番好きな場面】
 「マイケルinシチリア編」の話が個人的にお気に入りだ。マイケルは、ニューヨークにケイというガールフレンドをもちながら、シチリアでとても美しい女性のアポローニアに一目惚れする。そして彼女と出会ったその日に、なんとマイケルは彼女の父親に結婚を申し込むのだ。いくらなんでも手を出すのが早すぎる。このマイケルの手の早さには、さすがに開いた口が塞がらないほど驚いた。だが、ニューヨークに戻るつもりはなく、シチリアで残りの人生を生きていくと決意したのかと思うと何だか彼を憎むこともできない。
 あんなにもカッコいいアル・パチーノに結婚を申し込まれて、「No」と言える女性もなかなかいないであろうなあ。マイケルを演じるこの頃のアル・パチーノは、ちょっとイケメン過ぎやしないか。

 特にお気に入りのシーンは、マイケルがアポローニアと初夜を迎えるシーンだ。下着姿のアポローニアに対して、まずマイケルは何をしたか。なんと「おでこへの優しいキッス」である。この場面にマイケルの性格が滲み出ていて素敵だなと感じた。彼の誠実さを見事に表していたと思う。「シチリアの女性は堅いぞ」ということを聞いてこのような誠実な行動をとった可能性もあるが、やはり相手のことを考えずにがっつくことのないマイケルは好印象であった。すぐに女性の唇は奪わない。これが「シチリアの女性を落とす」ポイントなのかもしれない。アポローニアでなくても、マイケルが相手だとすぐに落とされてしまうと思うけど。こんないい男、なかなかいないはず。

【おわりに】
 最初は可愛かったマイケルが、物語が進んでいくごとに考え方だけでなく、顔つきまでも変化していく。マイケルの恐ろしさが徐々に洗練されていくこのストーリーの運び方が上手すぎる。最初と最後ではまるで別人じゃないか。アル・パチーノの演技力は一体どうなっているんだ。身震いするほど美しい展開の連続であった。本作がいま観ても全く色褪せることのない不朽の名作であることはよくわかった。これからも後の世代の人たちにしっかりとこの物語を継承していきたい。『ゴッドファーザー』よ、永遠に…。

*淀川長治 (2003)『淀川長治究極の映画ベスト100』河出文庫、p,145より引用
Koshi

Koshi