Chico

夜のダイヤモンドのChicoのレビュー・感想・評価

夜のダイヤモンド(1964年製作の映画)
4.5
2人の青年が山の中を息を切りながら走る。まもなく挿入されるフラッシュバックから彼らが強制収容所行きの列車から逃亡し追われていることがわかる。

ほぼイメージと音だけで、ホロコーストのインパクトを再現した実験的な映画。

本作は現実とフラッシュバック、妄想のイメージなどと環境音で成り立つ。セリフは少しあるもののストーリーを補間するだけの情報ではないし、そもそもストーリー自体観客に委ねられてる。

食べて飲むという生命を維持するこの行為さえ、異様に大きく単調な咀嚼音を聞いていると単なる作業に見え、フィルムに映し出される人間の動作を観察すればするほど、生きるという行為が不可解に見えてくる。

生と死が文字通り隣り合って座る光景を俯瞰することで現れる不条理。言葉にできない不気味さが存在する。

ホロコーストの残忍な描写はないが、その恐怖が常に背後から追ってくる緊張感にラストまで一瞬も目が離せなかった。

フィルムという映像表現の極み。
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