・ジャンル
スラッシャー/サイコホラー
・あらすじ
‘39年8月、皮膚病を患い産まれ捨てられた赤ん坊が農場を営むヒューイット家の元に引き取られる
変性疾患により顔面の変形した彼はトーマスと名付けられ、成長すると知的障害が判明
兵役に取られる事もなく精肉所で働く様に
しかし’69年になると町は寂れ精肉所は閉鎖、町から人々が去る中で精肉所を去る事を拒むトーマス
彼の最初の凶行のきっかけである
そして叔父にあたるチャーリーは唯一の保安官ホイトを殺し身分を奪い完全な無法地帯と化した
そんな事情を知る事なくベトナム戦争の為、再入隊に向かっていたエリックと恋人のクリッシー及びエリックの弟ディーンと恋人のベイリーの4人
彼らは不運にもヒューイット家の毒牙に掛かる事となってしまう…
・感想
人皮マスクとチェーンソーでお馴染みの殺人鬼レザーフェイスとその家族による食人を目的とした殺戮を描くシリーズ6作目にしてリメイク版シリーズ2作目
今作の内容はレザーフェイスの出生や過去、ヒューイット家が殺人を生業とするに至った背景が描かれた前日譚となっている
原作シリーズのシュールでカルト的な要素を排除しシリアス路線を徹底した前作は同様にコメディ要素を除きリメイクされた「死霊のはらわた」と並ぶ傑作だった
前日譚である今作もその世界観は健在
終始流れるヒリついたムード、それぞれ異なる狂気を滲ませるヒューイット家、丁寧に描かれた前作との繋がり、僅かに挿まれた原作へのオマージュ(車内での徴兵カード燃やしのシーン等)…
そのどれもが緻密に組み立てられていて陰惨さはよりジメッとしていたのがとにかく素晴らしかった
レザーフェイスことトーマスの過去も分かりやすく悲劇的で良い
しかし特に印象的だったのは戦争という要素を組み込んだ事で話に説得力が生まれていた点
食人のきっかけとなったのはトーマスの叔父にあたるホイト保安官ことチャーリー
彼は朝鮮戦争で捕虜に取られた過去を持ちその時、飢えを凌ぐべく仲間を食べていた
今は実家にいるものの町は徴兵の影響もありゴーストタウン化しており彼ら以外に住民はほぼいない
農場の事業は成り立たず精肉所も閉鎖した事から彼は当時の様に食人を始めてしまう
一見ぶっ飛んで聞こえるが戦地で食人が横行していたのは事実で日本兵も例外ではなかった
それを知っているだけに何とも言えない生々しいエグさが感じられ単なるスラッシャーではない惨さが伝わってくる
加えて主人公クリッシーの恋人エリックとその弟ディーンにも戦争は絡んでいて当時の世相の悲哀がより重くのし掛かる
そしてヒューイット家の近親相姦にしっかりと言及されていたのも原作でモデルとなったであろうソニー・ビーン一族を想起させるだけでなく前述の生き残る為の一家の生業へと繋がっていく
殺戮とカニバリズムを描くとなるとショックバリューへと偏ってしまいがちだが本作は違い、社会的な背景が密接に絡み合っていてより重たい生々しさへ昇華されているのがとにかく秀逸に感じた
加えてゴア描写にしても豪快でありながら命が軽く描かれる事はなくじわじわと傷付けられ追い込まれ殺害に至る様が凄まじい…
脚の肉を削いだり舌を抜かれたりという死に至らない程度の責苦、チェーンソーで切り裂くのではなく刺殺するが故の激しい血飛沫と無惨な遺体、“料理”中に散らばった指…
挙句、身内であるチャーリーの叔父モンティまで撃たれた脚を手術と称して無惨に切断されるという…
前作でも見られたレザーフェイスが顔の皮膚を剥ぎ裁縫でマスクを新調する姿が今作でもバッチリ描かれていてそこも良かった
あとは何と言っても緊迫感ある攻防
災難が引っ切りなしに続いてスラッシャーの王道であるファイナルガールも不在
全てが終わった後にさも現実にあった事件の様に流れるナレーション
POVやファウンドフッテージ、モキュメンタリーではないのにそれに近い没入感が得られる
いやぁ久々に良い物観たな…