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Minotaur(原題)
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『Minotaur(原題)』に投稿された感想・評価

[現代ロシアのミノタウロスは誰のことか?] 80点

傑作。2026年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。2027年アカデミー国際長編映画賞フランス代表。アンドレイ・ズビャギンツェフ長編六作目。クロード・シャブロル『不貞の女』の現代ロシア版リメイク作品。監督はコロナ禍の2021年、ロシア製ワクチンの副反応によってコロナに感染し、一時は肺の90%が損傷する危篤状態となり、ハノーファーの病院で人工的な昏睡状態に置かれ、11ヶ月以上の入院を経て奇跡的に回復した。その後、ロシアによるウクライナ侵攻を契機にフランスへ移住することになり、『ラブレス』から本作品までの間に9年の時間を要したのだった。物語は侵攻開始直後のロシアの地方都市を舞台としている。運送会社のCEOであるグレブは湖畔の豪邸に妻ガリーナと一人息子セリョージャの三人で暮らしている。ある時、ガリーナの行動を不審に思ったグレブが調査すると、アントンという写真家と不倫をしていると知る。一方で、市長から"君の会社から14人の兵役志願者を出してくれ"と言われ思い悩む…云々。基本的なプロットは原作に忠実と思われるが、不倫譚のラストはより"ロシア的"は解決をしている。夫婦は互いに言えない秘密を抱え、お互いにそれに気が付き、依存するしかなくなってしまうという地獄の展開こそが、二体のミノタウロスが自ら撒いた罠にハマって、共依存の迷宮から出られなくなっていくように見えなくもない。一方で、戦争とも不可分ではない。多くの慣れ親しんだ従業員がロシアを離れ従業員不足の会社に14人もの人間を出す余裕はなく、新事業と騙して掻き集めた馴染みの薄い人々を"生贄"として差し出す構図から見るに、迷宮は国家や戦争という、より大きな概念にも適応されている。それらは同じ構造なのだ。自らの責任を無視した一方的な怒りにより殺人を犯し保身のために罪を上塗りしていく様は、まさに現在のロシアそのものだ。
構造的な次元から俯瞰するとき、世界は巨大な迷宮、ラビュリントスである。
迷宮に迷い込んだ若者たちは、闇の中で互いを打ち倒すべき「ミノタウロス」として対峙するばかりだ。

「私の強いられた犠牲と献身は、対等な立場にある相手から正当に尊重されているのだろうか」

出口を見出せないまま、迷宮の中に響き渡る。
Shaw
4.6
tiff 監督同席プレミア
9年を超えてまたも凍てつく傑作を作りあげた鬼才。シャブロルの『不貞の女』を原作にミノタウロスの神話とウクライナ=ロシア関係を織り込んで複層的なサスペンススリラーを構築。単に追い詰められた男の心理を描くのでは無く、特殊な状況が人間の元からの性根を暴いていく様を見るような、寒気のする物語に仕上がっている。音楽がスパースながらも素晴らしく印象に残る。