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Fatherland(原題)
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『Fatherland(原題)』に投稿された感想・評価

[ドイツ、私の愛したかつての祖国] 70点

2026年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。パヴェウ・パヴリコフスキ長編七作目。作品数も少ないしまだまだ若いと思っていたが、コンペではペドロ・アルモドバルに次いで二番目に高齢の68歳だった。前作『COLD WAR』が公開された頃、『リモノフ』の脚本を書いており映画化をするという話を聞いていたが、結局2020年頃にリモノフへの興味を失ったらしく、脚本はそのままキリル・セレブレンニコフが映画化する際に使用されたようだ。物語は1949年夏、作家トーマス・マンは娘エリカを連れて東西に分断されたドイツを横断する旅に出る、というものと聞いていたが、実際に旅をしている時間はほとんどない。ゲーテ賞受賞のスピーチをアメリカ領フランクフルトとソ連領ヴァイマールで行う裏で葛藤する二人を描いている。フランクフルトでは、かつて父娘が属していた上流階級が今でも大きな顔をしている。エリカの元旦那で弟クラウスの小説『メフィスト』のモデルにもなったグスタフ・グリュトゲンスがソ連の収容所に入れられていたことを自虐的に語り、ワーグナーの孫たちは悪びれもせずバイロイト音楽祭を復活させようと画策している。エリカは従軍記者時代の同僚で恋人ベティ・ノックスに"彼らは5年前に何をしていたのか?"と呟く。一方で、ヴァイマールはナチス時代よりも悪い。ホテルの隣にあるブーヘンヴァルト強制収容所は今でもソ連が政治犯収容所として使っているが、それを告発してきた男は目の前で秘密警察に連れ去られる。トーマスはかつてのドイツ国民が持っていた"良きドイツ"の国民性が復活することを控えめに信じ、ゲーテに絡めて非政治的な演説をするが、それらが既に失われているのは明白だ。フランクフルトで、"なぜドイツに留まらなかったのか?"と問われたトーマスは、"留まっていたらここにはいない"と返す。しかし、トーマスと共にドイツを出た息子クラウスは耐えきれずに自殺してしまった。彼が信じていた幻想は、最初からどこにも、ドイツにもアメリカにもなかったのだ。

極力政治的なものから離れることである種の理想と中立性を保とうとするトーマスだったが、その姿勢こそアメリカとソ連それぞれに利用されてしまっている。まるで『メフィスト』そのものだ。だが、ヘンドリク・ヘフゲンとの違いは、トーマスがそれに気が付いたということだろう。クラウスが唯一愛したクラシック作曲家バッハの"主よ、人の望みの喜びよ"を聴きながら、トーマスは向き合うことのできなかった二つの死に向き合う。崩壊した教会は戦争の被害から未だに抜け出せていないドイツの状態を暗示させ、そこに差し込む穏やかな光が二人を優しむ包み込む。DPは引き続きウカシュ・ジャルが担当。本作品でも、特にヴァイマール側の真っ黒な室内などの陰影は素晴らしかったが、前作ほどショットそのものに拘っている感じはせず、緩めだったように思う。