DZ015

悪魔とダニエル・ジョンストンのDZ015のレビュー・感想・評価

5.0
たぶんどこかでダニエルが羨ましかったんだと思う。ぼくだって運命の女性とマウンテンデューとビートルズのことだけ考えて生きてみたい。大人になるにしたがって「好き」と「嫌い」、「イエス」と「ノー」の中間を選択せざるを得ない場面が増え気付けばがんじがらめ。本当の自分ってなんだ。と、このドキュメンタリーを観るまでは思っていた。しかしあらゆる神経がむき出しのままほっぽり出されたかのようなダニエルの住む世界を目の当たりにして、ぼくはこの「ぬるい」世界でいいやと思い直した。

まずはその圧倒的情報量に度肝を抜かれる。なんでこんなシーンが録画もしくは録音されてるのか?というシーン目白押し。この何十倍何百倍の膨大な量だったであろう、誕生から今日までのダニエル・アーカイブを紐解き、丹念に110分に纏め上げた監督とスタッフの労力にまずは頭が下がる。正直一度観たぐらいではとても消化しきれないボリューム。

ダニエルの純真無垢な面だけをクローズアップして「ダニエルは天使ちゃん」に仕立て上げることも、躁うつ病による苦悩を赤裸々に描き出し、お涙頂戴「感動のドキュメンタリー」に仕立てることも出来たでしょう。しかしここにあるのはひたすら冷静な視点で淡々とダニエルの生い立ちを時系列に沿って並べただけの「ドキュメンタリー」。結果としてダニエル・ジョンストンがいかにして“生ける伝説”となったかが見事に浮き彫りに。天使と悪魔の協奏曲。周囲の人々の愛情が時にまぶしく時に辛い。ダニエル自身はもちろん、これまでダニエルに関わったさまざまな人へのインタビューを中心に構成、中でも御歳80歳を超えた今もダニエルのマネージメント兼世話役として多忙な日々を送る父、ビル・ジョンストンの、時に淡々と、時に嗚咽を堪えながらの独白には度々ぐっと来た。とにかく全てのシーンが見どころのあっと言う間の110分。

ダニエルをご存知の方はもちろん、ご存知ない方もぐいぐいと引き込まれるであろう愛と音楽に満ち溢れた素晴らしいドキュメンタリー。

創作と入院を繰り返していたダニエルなのでどこかで覚悟はしていましたが、昨年(2019年)9月、とうとう本物の天使になってしまいました。不謹慎な言い方だけど、ダニエルのその歌声なら天国にとても映えると思う。安らかに。歌い続けて。
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