久七郎

シッコの久七郎のレビュー・感想・評価

シッコ(2007年製作の映画)
3.5
9.11の20年節目シリーズ第3弾。

マイケル・ムーアによるオバマケア前のアメリカの国民皆保険制度が無い中で起こっていることや、何故、無いのかという経緯を描いたドキュメンタリー。

国民皆保険が無い=全額自費診療、と思っていたけれど、大勘違い。
しかも、営利団体における利益の追求度合いがハンパない。

国民皆保険が無い=入れる人は民間の医療保険へ加入する。
加入出来ない人もいっぱいいるけど、加入していても、保険審査のハネ方が常軌を逸している。

ヒラリー・クリントンが大統領夫人として、国民皆保険制度の導入のための活動は、見事に民間医療保険会社たちに潰されてたんだなぁ。
誰に幾らロビイストを通じて献金され、妨害されたかをポップに描く。

イギリス、フランス、カナダ、キューバとの違いを自分でワイルドに調べに行くマイケル・ムーア。
この4国は、国民皆保険があり、かつほぼ無料で医療を受けることができる。
要するに、医療に「値段」がない。
ついでに、同じアメリカとして、グアンタナモの収容所まで行く発想がすごいよ。

アメリカの場合、そもそも、医療に「値段」があって、それに対して保険審査を経て許可を得てから医療を受ける。

自由の国で、医療は不自由なんだな、なんでだろ?と思うと、画一的な医療は社会主義国家になっていくステップというプロパカンダが流布されたから。

あらゆる発想が違いすぎて、ビックリしたなぁ。

そして、国民皆保険がある国ごとにも、お国柄が出て面白い。
さすが、おフランスはフランス革命があっただけあって、平民の権利が徹底されている。
イギリスは、未だに階級の違いを明確に持った発言を普通にする。
第二次世界大戦で大きな被害が出ても国家予算の範囲だったんだから、それなら国民皆保険も予算で出来るはず、という成り立ちが素晴らしい。

同じ民主主義国家の中でも、「自由」の捉え方が違うんだなぁ。

日本の国民皆保険も、日本の個性もあり、弊害もあって手放しで絶賛することは出来ないけれど、かなり高い確率で、安定した医療をある程度の自己負担額で受けれる国で良かった。

9.11の救助にあたって呼吸器疾患になってもボランティアスタッフであれば保険適用されず、グアンタナモに収容されたテロに関わったであろうという人々は一定の医療体制が整った上で、拷問される。

いずれにせよ、アメリカも、旧ソ連、中国、北朝鮮と同じくらい恐ろしい国だと思う。
日本は、よくもまあ、こんなパンチの効いてる国と戦争をしたよね。
流れでそうなった結果論だとは分かるけど、最初から勝てそうな予感がしない。

第二次世界大戦の戦後処理がもっと最悪なシナリオだった場合を考えてみると、よく今の形の日本が残せたな。

なんて近現代史を振り返りながら、国民皆保険について考えさせられるけれど、テイストが基本的にウイットに富んでいるので、重くなりすぎないで観れて良かった。
久七郎

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