垂直落下式サミング

子連れ狼 三途の川の乳母車の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

5.0
最高傑作と名高いシリーズ第二作目。
一作目でキャラクター紹介がすんだので、本作ではアクションスプラッター要素が増し、個性豊かな刺客たちが親子の命を狙って次々と襲いかかってくる。
なかでも恐ろしいのは、最初の刺客として襲ってくる二人組である。遠くから走ってきた男が拝一刀の初太刀を頭で受け止めて、刀身を両手で掴み刀を無力化して合図をおくると、その男の背後からあらわれた二人目が、死にゆく仲間を踏み台にして飛びかかってくるのだ。ジェットストリームアタックだ。一人目は死ぬことが前提の悪魔的な作戦である。敵たちは、命を落とすことが当然の算段かのように、地獄へと我が身を投げ捨てていく!
最後の刺客として登場する手甲、鉤爪、金棒をそれぞれ武器とする編笠の三兄弟も強い。彼等は砂丘のなかに潜んでいる侍たちの気配を察知し、事前に奇襲を見破り、これをすべて打ち倒してしまう腕利きである。ここで、彼等の見せ場を作っておいてから、颯爽と拝一刀が登場し、刃を交える因縁の決闘となる。
これをみて感じたのは、時代劇において死に際の台詞はやはり必要で、斬られた人間が長々と言葉を続けるなんておかしい描写ではあるんだけど、そのような嘘こそ演芸の醍醐味だということ。斬り合う前、相対した時に一言二言と言葉を交わせば、それが死に様となる者もいれば、首を斬られても粘り続ける奴もいる。それが時代劇だ。
監督の三隅研次は、これと同じ年に勝プロの映画を4本も撮影していているが、多忙ななかでクオリティを落としてはいないどころか、そのどれもが以前に増して強烈な視覚的インパクトを残すものばかりになっている。
シリーズの魅力はなんと言っても、若山先生の高い身体能力から繰り出されるアクションスプラッターだ。躍動感のあるアクションと、刀身が光り、水溜まりが光り、泥と垢にまみれた役者の顔までも光る三隅演出は、なかなかどうして相性がいい。血飛沫をあげて倒れ伏す外道どもを背にし、刀をくるっとまわして腰の鞘におさめる富三郎の殺陣の鮮やかさ!ピカッ!ドシュ!納刀である!
過剰な方向に進化する三隅研次。小池一夫が持ち込んだキャラクター理論。製作資金に糸目をつけない勝プロ。いまだにマカロニがやりたくて仕方ない若山先生。戦後から続いてきた映画産業の形態にいよいよ無理が生じはじめた時期に、様々な無茶が重なったことによって生まれた作品だ。
若山富三郎の拝一刀は、日本型プログラムピクチャー量産体制の最後の輝きのなかにいる。