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砂の女のBONのレビュー・感想・評価

砂の女(1964年製作の映画)
4.9
水の流れのような風紋、時に牙を剥いて襲う砂の怪物、幾何学的で神秘的な砂。払っても払ってもまとわりつく砂。

オープニングクレジットから芸術的で、これからの不穏を象徴するかのような集団で押印されたハンコ、それらから漂う集落の悪習やヒエラルキー、楽譜のような英字での製作陣・キャスト紹介。音楽。カッコ良すぎた。

原作は安部公房の同名小説、製作は市川喜一・大野忠、撮影は瀬川浩、音楽は武満徹、美術は平川透徹。

ストーリーは砂丘に昆虫採集にやって来た男が、女が1人住む砂に囲まれた家屋に閉じ込められ、様々な手段で集落から脱走を図る話。

初めは不便な環境に憤り、そのうち外部から助けが来ると待ち望んでいた男。やがて女との生活に馴染み、砂掻きや物資配給制の砂の生活に順応していく。

逃げる手立てはまたその翌日にでも考えればいい、と闘う意思があるように見せかけて今の環境に甘える。言いようのない気持ち悪さと恐怖を感じるのは人間の慣れと諦めを知っているからなのだろう。

女という砂に絡まれ男が抜け出せなくなる姿はまさに蟻地獄でセットで作られた穴がとにかくすごい。

「でも、東京の女の人はみんな綺麗なんでしょう?」都会ではなんてことない女が、砂にまみれた排他的な空間では美しくなるんだなと思ったし、岸田今日子の艶かしさが本当に恐ろしい。

原作を読んでいる時に頭で描いていたイメージがそのまま写実化され、ストックホルム症候群のような、吊り橋効果のような、人間の順応力のような、人間の気持ちを利用した闇に恐ろしく飲み込まれる傑作だと思う。

本作の撮影地は静岡県の浜岡砂丘で、「ツィゴイネルワイゼン」の撮影地もここらしい。
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