Kuuta

周遊する蒸気船のKuutaのレビュー・感想・評価

周遊する蒸気船(1935年製作の映画)
4.2
スラップスティックなテンポでぐいぐい進む。主人公と弟の婚約者(アン・シャーリー)の信頼関係の構築と、目の前の危機の脱出が、包丁の受け渡しで描かれる。同じ船に乗った人々が移動しながら、物の受け渡しで難題を突破し、理想的な共同体を築く。「駅馬車」にも繋がる内容だった。

死刑場に向かう列車をアンシャーリーが見送る場面。アンシャーリーは男と抱き合った後、一人で柱にすがる。その手には、左薬指の指輪が輝いているが、すぐに左手はフレームアウトされる。彼女の心境を手際よく描いている。このフリが効いているからこそ、レースのゴール目前でアンシャーリーが汽笛を鳴らしまくり、アップで笑顔が捉えられた瞬間、ちょっと泣いてしまった。(「手綱」を持って先頭を走るのは女の役目。家で待つ西部劇との違い)。

土地に縛られ、呪われた「沼地の人たち」。荒野でも街でもない「川」は現世から逸脱した異空間だ。川の周りには南北戦争で傷を負った人や先住民が現れる。刻々と死に迫る人の運命、定刻通りの列車に抗う原動力は、蝋人形と偽の酒、ニューモーセのインチキ臭い信仰心、全て紛い物に過ぎない。アメリカという人工国家=蒸気船が、物語の高揚感と共に加速していく。84点。
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