◎八ツ橋が歌舞伎と違う籠釣瓶だが狂う経緯無し
1960年 東映京都 カラー 109分 シネマスコープ
*ピンぼけ、枠切れ、コマ飛び、褪色、傷あり
吉原を舞台とする歌舞伎の人気演目『籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)』を片岡千恵蔵の佐野次郎左衛門で映画化した内田吐夢監督作品。
一般の評価は高いようだが、本作についても、歌舞伎の舞台で何度も名演に接して来た身からすると、八ツ橋の人物造形をはじめ改変部分に納得が行かず、結果的に歌舞伎の方に軍配を上げざるを得ない。
【以下ネタバレ注意⚠️】
原作の歌舞伎は江戸時代の吉原を描いているものの、実は江戸時代に上演されたものではない。
三代目河竹新七(1842-1901)の作で、1888年(明治21年)に初演された近代の歌舞伎なのだ。
*1 歌舞伎用語案内 三代目河竹新七
dev-enmokudb.co-site.jp/phraseology/3603
本作の舞台作品としての合理性は、ある意味、明治になってから回顧された作品だからこそ、理想化された吉原の姿を再現できたとも言えそうだ。
吉原遊女の最高位を誇る八ツ橋は、あくまでも美しく、初めて大門をくぐった田舎大尽佐野次郎左衛門は、その圧倒的な美に我を忘れて見惚れるのである。
その八ツ橋を女方の美を極めた坂東玉三郎が演じ、次郎左衛門を故中村勘三郎や故中村吉右衛門といった演技巧者が演じたとき、我われ観衆も次郎左に同化して、花魁の美に陶然とするのだ。
*2 シネマ歌舞伎 籠釣瓶花街酔醒
www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/1747/
ところが内田吐夢版の本作では、八ツ橋は、はじめ無許可の私娼稼ぎを摘発されて、吉原の兵庫屋に身柄を預けられた深川の岡場所遊女だという設定になっている。
それを演じる水谷良重の野生味のある太々しい面構えは、まさにハマり役。
要は、本作の八ツ橋は、歌舞伎と違って、そもそも美しくもなければ、次郎左衛門と出会ったときは花魁ですらなかったのだ。
まぁ、この改変を良しとしても、本作で物足りなかったのは、タイトルに「妖刀物語」を謳いながら、人の良い次郎左が満座のなかで八ツ橋に愛想尽かしされて逆上し、狂った殺人鬼と変ずるプロセスを見せなかったことである。
*3 刀剣ワールド
歌舞伎の名場面・見どころ 籠釣瓶花街酔醒
www.touken-world.jp/tips/7283/
シネマ歌舞伎として映像にも残されている故勘三郎の段々と狂っていくさまを観よ。
役者の「演技」を観ることの醍醐味は、まさにここにある。
せっかく片岡千恵蔵という名優を主演に得ながら、内田吐夢は何故このプロセスを観せようとしなかったのか。
歌舞伎とは違った劇作品を提示したいという意欲は分かるが、やはり不満は感じざるを得なかった。
《参考》
*4 妖刀物語 花の吉原百人斬り
1960年9月4日公開、109分、時代劇
Movie-Walker.jp/mv22996/
**ストーリーに「武州」佐野とあるが「野州」ないし「下野」が正しい。他サイトも同様。
*5 YOKOの「あれもこれも・・・」
内田吐夢 「妖刀物語 花の吉原百人斬り(東映1960」
2022年02月25日(金)
ameblo.jp/y25k24m52/entry-12728605750.html
*6 女優・水谷良重の代表作『妖刀物語 花の吉原百人斬り』1960(昭和35)年| 京都府京都文化博物館
cinefil.tokyo/_amp/_ct/16886599
*7 mars9241のブログ
妖刀物語 花の吉原百人斬り ①
2023-01-28 17:38:11
ameblo.jp/mars9241/entry-12786510956.html
*8 武藤健城|イーガル 現代音楽とその他の仕事 | column 2010/08/09 20:31
映画075 妖刀物語 花の吉原百人斬り
column.takekiygalmuto.com/?eid=1000083#gsc.tab=0
*9 TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹 2024-03-25
映画へ〈改作〉される古典芸能:『妖刀物語 花の吉原百人斬り』 1 歌舞伎『籠釣瓶花街酔醒』からの改変点
yomota258.hatenablog.com/entry/2024/03/25/213725
*10 全50作品。片岡千恵蔵が出演した映画ランキング
cinema-rank.net/list/103964
《上映館公式ページ》
京都文化博物館
映画撮影監督吉田貞次を偲ぶ〜七回忌追悼上映
2024.9.25(水) 〜 10.6(日)
会場: 3階 フィルムシアター
共催:日本映画撮影監督協会
www.bunpaku.or.jp/exhi_film_post/20240925-1006/