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パーフェクトブルーの都部のレビュー・感想・評価

パーフェクトブルー(1998年製作の映画)
4.4
今敏監督の出世作である本作は、偏執的に整然と構成された画面の配色や構成の鮮烈さが迸る場面が連続する傑作長編アニメ映画であり、後の作品にも繋がる虚構と現実の壁の消失による計画された個人の迷走をこの頃より理知的に描き切っている。

ペルソナ論的な『他者が望む姿形を演じること』への強迫観念を、芸能界の理想と現実/清と濁に対する一種の恐怖として扱うことで、なにが現実なのか分からなくなっていくような鑑賞体験は非常に愉快。

アイドルの自分と売れない女優としての自分同士の衝突は病的な絵面でありながら、現実性を飛び越えた浪漫ある架空性を感じるそれで、そうした印象を芽生えさせた後にキッチリとその印象を剥いで、衝撃の真相を挟み込むのエンタメのやり方が上手すぎる。それでいて結末は思わずゾクゾクするような末恐ろしさすら感じる虚像の主張のような撮り方と〆文句で幕を閉じるので、気持ちよく作品に翻弄されたという満足感が充満するのはたしかである。

ファン視点でのアイドルという職業に対する身勝手な偶像崇拝の暴走という命題は対象が些か異なるだけで現代でも通底する描写で、2000年付近のじっとりとした空気感に仄暗さを感じる作画が噛み合うことで、迫真の危うさを生んでるのも特徴的でしたね。

作品の大きな特徴であるアニメ映画らしからぬエロ/グロ描写はしかし自分の中でも賛否あるもので、作品の独自性を形作る要因として強く機能している一方で、この命題を描く上で必要性を感じない──前者は必要不可欠であるが後者は前者を際立たせる為のコントラストのようである──場面もあり、良し悪しはあるかなと。

個人的には先の読めないサスペンスフルな展開は歯応えがありましたし、ペルソナを巡る物語が個人的な好みなので、演じた自分と本来の自分の乖離に苦しめられる人間の物語としては素晴らしい出来だと感じられます。
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